⑥
「あと1時間ほどで、アンハルトの王宮の森に着くそうです」
「そうか。 意外に近いんだな」
リンゲンの王宮の裏にある森を馬車で走る事2時間。
あと1時間もしたらアンハルトの王宮の裏にある森に着くらしい。
普通なら国家間の訪問は表玄関同士で行き来するため、首都が国境越しに隣りあってると言っても、王宮から王宮は馬車で半日はかかる。
しかし今回訪れるレティシアがいるところは王宮・・・ではなく、その裏にある森の中。
なので最短距離で両国間の森の中を突っ走ることにした。
「しかし何で森の中に住んでいるのかね~。物好きだな、「愛し子」様の娘は」
レオナルドはレティシアに会いに行くことを決め、国王からレティシアの調査書を受け取った。
今「愛し子」様は王宮に住んでいて、レティシアは一人で森に住んでいるらしい。
しかし森には多くの妖精がいるため、調査をすると言っても大したことは調べられなかったようだ。
“娘の髪の色は銀色でストレート。 馬に乗って森を駆け回っている。 現在一人暮らし。”
「え? これだけ???」
レオナルドはリンゲンの諜報部員への失望を隠せなかった。
しかし諜報部員からすると、「あの森、怖い。 あの森、怖い。 文句があるならお前が行け」という心情なのであった。
「すみません、ここから先は馬車で入れません」
御者が声を掛けてきたため、レオナルドとアントンは馬車を降りた。
周りを囲む騎士が乗ってきた馬も、前に進むことを拒否し、その場で足踏みをしていた。
「なんだ? どうした? もう少し先だろう」
「殿下、馬だけでなく、我々も、ここから先に行くことが出来そうにありません」
副騎士団長が少し汗をかきながら、レオナルドの前で膝を折った。
「殿下、私も何だか、・・・先に進むなと、何というか体の細胞レベルで訴えかけているような・・・」
アントンも少し汗をかいていた。
「わかった。では私一人で行く」
「「「ご武運を」」」
(いや、「ご武運を」じゃねーよ。
一国の王子を一人にするなよ!
俺に何かあったら、お前ら父上に首撥ねられるんだからな!)
でも仕方がない。
何も感じなかったのはレオナルドだけだったのだから。
(何も起こらないよな?
妖精姫様の愛する森だもんな???)
ちょっとビビってるレオナルド、森に不慣れな王宮育ちである。
アンハルトでは「愛し子」と言われるが、リンゲンでは妖精姫として語り継がれている。
レオナルドも童話で妖精姫様の物語を読んでいた。
3歳のレオナルド、童話の妖精姫様が初恋の相手である。
そしてある日何気なく王妃に尋ねた。
「いまもよーせーひめしゃまは、アンハルトのもりにいらっしゃるの?」
「いいえ、今はオルティース公爵夫人になられて、一児の母よ」
レオナルド失恋の瞬間であった。
切ない失恋の痛みを思い出し、哀愁の表情を浮かべたかと思えば、そのライバルが宰相であったことを思い出し、はらわたが煮えくり返って情緒不安定になった頃、森が開けた。
スカートを捲り、湖に足を浸らせているのは、銀色の髪の、女神もかくやの美しい———————
息をすることも忘れ、レオナルドは少女を見つめた。
細胞が伝える。
彼女は自分の運命だと。
「っはぁ」
体が空気を求めて、レオナルドに呼吸をさせた。
急に入ってきた酸素で我に返る。
そして、一歩踏み出して、
「誰!?」
自分が踏んだ足音を聞いて、少女が振り返った。
自分を見つめているのは、この世のものとは思えぬほど美しい、虹色の瞳。
見つめられている。
ただそれだけで、うれしい。
ただそれだけが、うれしい。
レオナルドは声を掛けるのも忘れ、一歩一歩と彼女に近づく。
少女は茫然とレオナルドを見つめる。
彼が何者なのかを見極めるように。
そこに親愛の色はない、だけど ———————・・・
ただ彼女の視界に入っているだけで、レオナルドの魂は歓喜した。
やっと本当のヒロインが出てきました!!!




