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「大体さ~、あのゴリラの娘だぜ? 絶対ゴリラだ・・・」



レオナルド、17歳、反抗期真っ只中であった。



レオナルドの幼馴染で側近のアントン・ヴインターベルク侯爵令息は、やさぐれたレオナルドに苦笑して、しばし休憩を取ることにした。

執務室に控えているメイドにお茶の用意を頼んで、二人向かい合ってソファに座る。



「もう婚約して3年でしたっけ? まだ会えないんですか?」

「もう会ってもいいから会いに行くようにって、・・・昨年言われたなぁ」



全く音をさせず優雅に紅茶を飲むレオナルド。

口は悪いがさすが王太子。

マナーは完璧である。



「え? なのに会いに行ってないんですか???」

「何で俺から会いに行かないといけないの? 

そもそもさ~、婚約はしたけどまだ会えません、って言われたと思ったら、『はい、会えるよ~、会いにきなさい~』って、俺を何だと思ってるの?

王子様だよ?


王太子妃になりたいなら自分からくればいいじゃん。

彼女の祖国はここリンゲンなんだから」



レオナルドは宰相のせいで、自分の婚約者にも苦手意識を持っていた。



「う~ん・・・。彼女が王太子妃になりたいって思っているのかどうかは知らないですが・・・。

でもゴリラとは限らないですよ。

だって、彼女の兄上はこの世の者とは思えないほどの美人なんですから!」









(え? ゴリラから美人が生まれるの?)






「・・・お前、今、すんごく失礼な事を想像しただろ。」



つい子供の頃と同じ口調に戻ってしまったアントンである・・・。



「コホン。

母上に聞いた話だと、「愛し子」様って、女神もかくやと言うほど美しい人だったらしいですよ。

レティシア様の兄上はもう20歳ですから。昨年辺りから社交界に出ておられますよ。

パーティに参加するたびに何人もの人が気絶してるらしいです(笑)。 ただ横を通っただけで!」



レオナルドは疑いの目を幼馴染に向けた。


そこで口を挟んだのが、紅茶のお替りを入れにテーブルに近づいてきた、王太子の執務室担当のメイドである。

彼女はずっと執務室にいるので、素のレオナルドも知っているし、何と言っても騎士団長の娘なのでレオナルドも気心が知れていた。



「ちょうど今日、宰相閣下に書類を届けに、エリアス公爵令息様が王宮にいらっしゃってますよ。

先ほど何人かのメイドが、フェロモンにやられて医務室送りになっていました。

今頃は薔薇園にいらっしゃると思いますので、一度ご対面されてはいかがですか?」



これにはレオナルドも興味をそそられた。


本当にゴリラから美人が生まれるのか見てみようか。










場所を移し王宮の薔薇園。




そこに、この世の者とは思えぬ程に美しい青年が一人、薔薇のアーチの下で佇んでいた。



白銀色の髪を風に靡かせ、浅瀬の海の様に薄いブルーの瞳を眩しそうに細目ながら、青空に浮かぶ薔薇のアーチを笑顔で眺めていた。









(い、・・・いけるな、俺・・・)









レオナルドの心の奥の、何かの扉が開きそうになった瞬間、危険を察知したのはアントン・・・ではなく騎士団長の娘セラ。



「お許しを」



一言そういうと、レオナルドとアントンの頭を思いっきりはたいたのだった。




頭を押さえて悶えていると、人外の美貌の青年が笑いながら自分たちに近づいてきた。



「王太子殿下にご挨拶を」



臣下の礼を執ろうとする青年に、レオナルドは待ったをかけた。




「良い。楽に。

エリアス・オルティース公爵令息だよね?」


そうだと言うようにエリアスが微笑むと、それを目の当たりにした3人の頬が真っ赤に染まる。








(くっ・・・。 本当にゴリラから美人が生まれるなんて・・・!!!)




レオナルドは何だか宰相に負けた気がして、言葉を続ける事ができなかった。




「レオナルド殿下、息子として父の態度に一言お詫びを・・・。


父はレティシアを溺愛している為、どうしても婿候補に対する態度が厳しくなってしまうのです。

当分宰相を辞める事ができないなら、レティシアと母上にこちらに来て欲しい。

その希望を叶えるのが、こちらの人間との婚約です。


会ってみて嫌だったら婚約を破棄すればいい。

でももしレティが殿下を気に入ってしまったら、そのまま結婚してしまう。


そういう事で、殿下に嫌がら・・・、品定め?をしているのです」




(ちょいちょい気になる部分があったな・・・)



だけど一番引っかかるのは・・・



「そちらがこの婚約を望んだんじゃないのか?」

「何故私たちが?」

「なぜって・・・。 こちらも国としては「愛し子」様にリンゲンに住んで頂きたいが・・・。

その娘との婚姻は、そこまで重要ではないはず。

今の世情を考えれば、他国の王女との婚姻の方が理がある」



現在、海を挟んだ向こう側の国に、やたら好戦的な軍事国家があり、きな臭い動きをしている。

現に一部の貴族からは、その国の姫を娶り友好を築いた方がいいという意見が出ていた。


「しかし、レティとの婚約はそちらの王家から打診され、父がレティを手元に置くため()()に了承したのです。

婚姻の条件は、レティが嫌だと言えば解消されます。

そして、あなたが嫌だと言っても解消されない」




「な、何で・・・」



「それは、あなたがレティシアに会って答えを探せば良いのでは?

もしも婚約を解消したいのであれば簡単です。

レティシアに嫌われれば良いのですよ。

あの子が嫌がれば誰も無理強いできない」




そう言って、人外に美しい男は、この世の者とは思えぬ美しい笑みを見せた。










「あともうちょっとで鼻血が出るところだった」


「同意しますが、世間の乙女の夢を壊すので我々の前だけだとしても、もう少し控えてください」


「私はあと1分一緒にいたら妊娠していたと思います」


「セラも止めて! でもあの時殴ってくれてありがとう!!

何かしらんけどドアが開きかけてた!!!」






レオナルドはソファに身を沈めて、一つため息をついた。




何だかよく分からないが、自分の中に風が通り抜けた感覚がしたのだ。




会いに行けと、誰かの声がする。




大事な何かを見落として手遅れになる前に、会いに行けと———————。







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