㉓
国同士での話し合いが続く中、フリーダはリンゲンに留まった。
レティシアの読み通り、彼女とアビゲイルは大変意気投合し、二人で王女としての心得を熱く語り合っていた。
それを寂しく見ていたレティシアを慰めるレオナルド。二人っきりにしてあげようとレティシアを連れ出し、不埒な事をする。
誰得?と陰でその様子を見て囁きあっていたアントンとセラ。
リンゲンに日常が戻った事を、皆が実感するいつもの王宮の光景。
国王は今回の声明を再度発表し、そしてミュンスターの侯爵令嬢に毒杯を与える事を国民に伝えた。
その声明にはミュンスターと和解したことは発表されたが、友好条約は結ばれなかった為、民からは不安の声が出た。
あの様な恐ろしい兵器を作る国といつか対立するかもしれない。それが恐ろしかった。
しかしミュンスターの次期女王とリンゲンの妖精姫が現在友として関係を築き、後日王太子と王女の間で、友好条約が結ばれる事が発表された為、国民は安堵で胸を撫で下ろした。
リンゲンに滞在している間に、フリーダの優しい空気に触れた妖精達は、当初より多くの数が彼女に付いて行くと決めた。
それによって不毛の地を多く抱えるテューリンゲン大陸も、ミュンスターの王都を中心として、妖精の加護の元で緑豊かになるかも知れない。
そうレティシアから聞いたミュンスター皇帝は、自国にいる騎士団長に早馬を出して、侯爵邸を無くしてしまうよう指示を出した。
彼らが帰る頃には、アラリケが居た形跡は跡形もなくなっているだろう。
そのミュンスター皇帝は、リンゲンの王妃の蔑む様な目に苛つきながらも、彼女が勧める通りに娘との時間を過ごした。
補償の話し合いが難航しており忙しい身だが、朝食はいつもフリーダと取る事にした。
しかしそこは他人なみに関わってこなかった二人。
朝食で交わされた言葉は、「おはよう」「お、お、お、おはよう、ございます」だけだった。
それを聞いたリンゲン王妃は、フリーダを昼食に誘い、彼女と楽しく会話する姿を皇帝に見せつけた。そして、皇帝にどや顔を送りつける。
回廊からそれを見た皇帝は怒りで顔を真っ赤にし、大きな足音を響かせてどこかに行ってしまった。
その日、リベンジで娘を三時のお茶に誘った皇帝とフリーダが交わした会話は、「お前は甘い物が好きか?」「は、は、は、はい。す、す、好きです」だけであったが、皇帝は笑顔でお茶会を終えた。
娘が好きな物を一つ、知る事が出来たからだ。
まだまだぎこちない、不器用な二人だが、一歩ずつ近づいていっているようだった。
補償の話し合いが三日間行われ、国民への発表が終わった後、皇帝はアラリケの処刑に立ち会った。
彼は彼女と最後に話をしたくて立ち合いを求めたのだったが、牢の中で少しも反省した色を見せないアラリケと、言葉を交わす事は無かった。
自分の息子を殺したのは弟だろうが、弟を唆したのはこの娘だろう。
しかし、皇帝の目には、怒りの色は無かった。
(この子は、頭がいかれている・・・)
「自分は悪くない」
「何で誰も分からないんだ」
「バカばっかりだ」
「死ね死ね死ね死ね」
爪を噛みながら、狂ったように独り言を繰り返すアラリケが哀れに見えた。
しかし、そんな女に殺された息子は、もっと憐れだ。
アラリケの処刑の後、皇帝は王宮に与えられた貴賓室で、度数の高い酒を煽りながら静かに泣いていた。
妻に詫び、息子に詫び、そして酒を飲む。
父のそんな姿を見たフリーダは、ただ後ろから父を抱き締めた。
皇帝は声を上げて泣いた。
「すまない、フリーダ。すまない・・・」
ずっと泣き続ける父王の背中から、声を掛ける。
「く、国に、も、戻ったら、おに、お兄様のお墓に参りましょう」
「うん。・・・うん。そうしよう」
静かに涙を流すフリーダと、大きな声で泣き続ける皇帝は、その夜、やっと本当の親子になった。
そして、フリーダが帰国する日。
別れを悲しんだフリーダは涙を流していたが、その顔には笑顔が溢れ、これからの未来を前向きに歩いて行く決意が見て取れた。
アビゲイルとがっちりと抱き合い、レティシアやレオナルドに礼を言い、父王にエスコートされて馬車に乗った。
遠ざかって行く馬車の窓から身を乗り出して手を振るフリーダ。
そしてそんな彼女が乗る馬車を追いかける多くの妖精達。
その幻想的な光景を見てレティシアは、自分の肩に手を置き、横に並び立つレオナルドを見上げた。
レティシアの視線に気づき、レオナルドがレティシアに微笑みかける。
愛し合う恋人たちは、春の日差しの中で少しの間視線を絡ませ、また去って行く友の乗った馬車を見送るために前を向いた。
愛しい婚約者の肩に自分の頭を乗せて、レティシアは心で祈った。
(フリーダ様が、これから多くの妖精達に囲まれて、幸せに生きていけますように・・・)
レティシアの願いを叶える様に、馬車の行く先に大きな虹が現れ、妖精達を多く連れた馬車がその下をくぐる様に進んで行った。




