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ヒーローのターン始まりです。
キラキラ王子様の素は、普通の男の子。
そんなヒーローが書きたくて作りました。
苦労人王子、爆誕です!
リンゲン王国の若き王太子、レオナルド・リンゲンは静かに怒っていた。
黒い髪にアメジストの様な紫色の瞳のレオナルドは、リンゲンの貴族子女から熱い視線を送られる程の美男子だ。
剣術も嗜んでいるため、スラリと高い身長に、程よくついた筋肉。
常にその美貌に微笑みを浮かべている為、彼は貴族の子女婦人方から、“微笑みの貴公子”と呼ばれていた。
しかし今、彼の顔にはその微笑みは無く、神秘的な紫の瞳には怒りが浮かんでいた。
17歳の彼には、国王に決められた婚約者がいる。
2歳年下の彼女はレティシア・オルティース公爵令嬢。リンゲン王国の筆頭公爵家の娘で、彼女の父親は現宰相である。さらに彼女の母親は、隣国アンハルトの国王の妹で、さらに120年振りに現れた「愛し子」だ。
つまり、ごりっごりの政略結婚である。
(別に政略結婚なのは別にいい。
良くはないけど、しょうがない。
妖精姫の様な可憐な乙女と結婚したいなんて、5歳までしか夢見てなかったし。)
王家に生まれたからには世情を鑑みて結婚相手を決められても仕方がない。
リンゲンは産業が発達していて裕福だが、その代わりに農業の分野が弱く、自国民の摂取量に生産がおいつかず、輸入に頼っている状況である。
そのため、国王としては「愛し子」様にこちらに住んで欲しいと思っていたところ、自分の従弟でもあるオルティース公爵がまだ公爵令息だった頃、隣国での交流会で「愛し子」様のハートを射止めたのである。
そして国王が望んだ通りに、120年ぶりに現れた「愛し子」様がリンゲン王国で暮らすことになったのである!!!
・・・え? 誰の話?
レオナルドは思った。
(え? 「愛し子」様、目ぇ、付いてる?
あのゴリ・・・、猿・・・、厳つい男に恋したの???)
だけど、恋したのである。
しかし長男を生んでその4年後、長女を妊娠した時、「愛し子」様が国に帰ってしまったのである。
焦ったのは国王・・・よりも公爵。
宰相補佐を辞めて、「愛し子」様を追いかけて隣国アンハルトに行ってしまったのだ。
そして、それによって困ったのが王宮の人間たち。
国王になりたてのマクシミリアン(レオナルド父)は一癖も二癖もあったため、従弟のオルティース公爵しか御せないのである。
無事に長女のレティシアを産んだ「愛し子」様だが、そのままリンゲンに帰ってくる気配がなく。
王宮はオルティース公爵に、年の半分をアンハルトで過ごす権利を与えるからと、何とか宰相職に戻って来てもらうように説き伏せた。
その時にレオナルドとレティシアの婚約も結ばれた。
そして、15歳になって王太子の職務を始めたレオナルドは、昨年帰ってきたオルティース公爵と政務でぶつかりまくるのである。
最初の1年間は、問題は無かった。
こんなもんか、という感じで政務を始めたレオナルドだったが、オルティース公爵が宰相職に復帰したとたん、書類がやり直しで差し戻されるわ、新しい改革も「はい、論破」されるわ・・・。
しかも。
廊下で会うと、見定めるように自分を見てくるのである。
(自分の娘を王太子妃にしたくて婚約をねじ込んできたくせに!)
レオナルド、17歳。
次代の王と言ってもまだ未成年の学生である。
はっきり言うと、宰相が大嫌いであった。