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【完結済み】愛し子のトリセツ  作者: 西九条沙羅
第二章

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「殿下。場所が特定されました」


控えめなノック音の後、アントンが部屋の外から躊躇いがちに声を掛ける。


赤く目を腫らした恋人達は、お互いの意思を確認するかの様に見つめ合い、


そして固く手を握って部屋から出てきた。


側に控えていた公爵家の使用人に、レティシアの愛馬を用意するように指示を出したレオナルドは、レイラとエリアスに向き合う。


「レティシアは一緒に行く事になった。申し訳ない・・・。

ただ、レイラ殿とエリアスは、このままアンハルトに向かって欲しい。


王家の馬車を用意してある。これは、王命だ」


レイラは涙を零して愛娘を見つめた。


レティシアは赤く腫らした目で母を見つめる。


「ごめんなさい、お母様。でも私は、レオと行く」


アントンに促されて二人は、別れの挨拶も碌に出来ずに公爵邸を出た。




「爆弾が見つかりました。場所は王都中央の記念広場です。

時限爆弾ですが、形は今までのとは少し違うようです。

その一つだけが設置されたようで、現時点で、王都に他の爆弾は見つかっていません」


アントンの説明を受けながら外に出ると、騎士団のメンバーも馬に乗っていた。

雨は落ち着いたようだが、分厚い雲が空を覆っている。


レティシアが愛馬に跨ったその時、邸からエリアスが走って追いかけてきた。




「レティ!

友達の名前、全員覚えているね!?

忘れないで、今のレティが呼び出せるのは二人までだ!

それ以上は危険だから!!!」


いつも悠然と微笑む兄が焦る姿を見て、レティシアは少し冷静さを取り戻した。


「大丈夫です、お兄様。皆の名前は思い出してるわ。

あれからずっと、呼べていない皆の気配も、近くに感じていたわ」


レティシアは笑顔でエリアスに答え、騎士達に囲まれて騎馬で記念広場に向かう。






エリアスが戻ると、レイラはその場で泣き崩れていた。

エリアスは駆け寄り、母親を抱き締める。


「母様、私も行きます。


私は信じたい。精霊王様は確かに、手出し出来ないかもしれない。

だけど、その為にレティシアがこの世界に送られたんだ。

この世界を守るために・・・。

だから母様、妖精達を連れてアンハルトへ・・・」

「あなたは何て酷い子なの!

愛する子を二人も置いて、母親一人を逃げさせるなんて、何て酷い子・・・」


レイラはエリアスの胸で涙を流した。

エリアスは優しく母の背を撫でた。


「違いますよ、言ったでしょ?


レティシアがこの世界を救ってくれるって。

これは別れじゃない。僕たちは皆、自分がなすべき事をするだけなんだ。

母様がする事は、レティシアに追い出されて情緒不安定になった妖精達を慰めて、アンハルトで待つ事ですよ。

妖精が天候を崩してしまったら、これからのレティシア達の行動に悪い影響を及ぼすかもしれない」


ね? そう言って笑顔でレイラを見つめるエリアスが、心細げにゆらゆら飛んでいる妖精を手で示した。


レイラは妖精達を見つめた後、涙を拭いて立ち上がった。

そして同じ様に立ち上がったエリアスの手を、両手で掴む。


「あの子を守って、エリアス。

二人とも無事で、お母様の元へ帰って来て」

「もちろんですよ、母様!」


エリアスは笑顔で手を振って、外へと行ってしまった。


レイラはまた溢れてきた涙をそのままに、笑顔で妖精達に声を掛ける。


「さぁ、あなた達。一度故郷の森に帰りましょう。

レティシアとエリアスが迎えに来てくれるまで、わたくしと森で遊びましょうね」


妖精達は、まだ不安そうに揺れている子もいたが、ほとんどがレイラの呼び掛けに安心して、レイラが乗る馬車の後を付いて、アンハルトの森へと帰って行った。






その頃王宮では、アラリケがフリーダに面会していた。

メイドの密告で、フリーダは深夜より王宮の貴族牢に捕らえられていたのだ。

オスカーは貴族牢の棟の入り口で、アラリケが一人でフリーダと面会しているのを待っていた。

少しすると、目を真っ赤にしたアラリケが俯きがちに棟から出てきた。

オスカーに気が付くと、アラリケは力無く首を横に振った。


「フリーダからは、何も聞けませんでした」

「だけど、このままだと王都は焼け野原になるのに! 自分だって死ぬんだぞ!?」


「捕まってしまったから、自暴自棄になっているのかもしれません・・・」


オスカーは、茫然とアラリケを見つめた。

彼は今しがたまで、フリーダは絶対に爆弾の止め方を吐露すると信じていた。

何故ならば、爆破が起きれば、逃げ場の無いフリーダも死んでしまうのだから。

その為にリンゲンは、ミュンスターの皇女であるフリーダを、メイドの密告だけで捕まえたのだ。



「あ・・・」


オスカーが死の現実に押し潰されそうになった時、アラリケが側にいた他の騎士に声を掛けた。


「殿下に伝言を。

フリーダから解除の方法を聞けませんでしたが、これからフリーダの部屋で設計図を探してみます!

それまで何とか!!!」


騎士がすぐさまアラリケに敬礼し、貴族牢のある棟を飛び出して行った。


「オスカー様、わたくし達も急ぎましょう!」



我に返ったオスカーは、アラリケに大きく頷き、走って外に出る。

貴族牢がある離宮から、フリーダやアラリケが滞在している東の離宮まで、かなりの距離がある。

オスカーはアラリケを愛馬の前に乗せ、走らせた。





主を失った東の離宮では、執事やメイドが右往左往していたが、アラリケは彼らに食堂に集まっておくよう指示を出し、自分は急いでフリーダの部屋へと走る。

オスカーも後に続きフリーダの部屋に入ろうとしたが、それはアラリケに止められた。


「フリーダは捕まりましたが、まだ刑が確定していない、ミュンスターの皇女です。

どうか、騎士様が部屋に入る事だけは・・・」


そう言って、アラリケは一人部屋に入ってしまった。

オスカーは、確かに国際問題に発展する可能性が無い訳では無い事に気づき、部屋の外でアラリケが、部屋中をひっくり返している音を聞きながら、足踏みをした。


しかしオスカーは、さきほどより絶望が緩和されている事に気づいた。

焦りは感じているが、死の恐怖に飲み込まれそうになった、あの絶望は無い。



(アラリケ様が一人で部屋に入ったからだ)


オスカーが部屋に入るのを拒んだのは、まだ罪人確定されていない淑女の部屋に、男が入る事を問題視したのだ。

それはつまり、この事件が解決した後を想定した行動。


オスカーはたったそれだけで、救われた気がした。


まだ大丈夫と、言われた気がしたのだ。



「あった!!!」


部屋から聞こえる声に、オスカーは扉を振り返る。

アラリケが設計図を持って、部屋の扉を大きく開けた。


「時間は!?」


アラリケが大きな声で確認し、オスカーは時計を見る。 そして ————



「・・・ダメだ、間に合わない」


時計の針は11時20分を指していた。



「何で!?

ここから広場までは、騎馬なら20分もかからないでしょ!?」


「今、民衆がパニックになって、城下町は逃げ惑う人々で溢れかえっている・・・。

騎馬でも間に合わない・・・」



オスカーの一言で、アラリケは真っ青になって震えだした。




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