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【完結済み】愛し子のトリセツ  作者: 西九条沙羅
第二章

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36/50


邸に戻ったレティシアは、賢人を呼び出した。


人払いがされたレティシアの部屋で、彼女は静かに彼の名を呼ぶ。




「ユーピテル」




眩い光の中、姿を現したのはアンハルトの王宮に住む賢人。

レイラが妊娠した時に、彼女のお腹に居る子が「精霊王の愛し子」であると、予言をした者だ。

しかし、アンハルトの王族だけが知る真実は、彼は人ではなく全知全能の精霊。

因果律が発生する前に精霊王が、自分の愛しい魂を守るために使わせた、精霊王の腹心である。


彼は他の精霊達とは違い、普通の人間と同じ様に重力を感じさせる存在で、大きさも人間と変わらなかった。しかしそれは彼が人間に擬態している時だけ。


今回魔力で彼をリンゲンに呼び出したため、他の精霊の様に彼も光を帯び宙に浮かんでいた。


優しく自分に微笑む賢人に、レティシアは問うた。


「あなたが、私の記憶を封印したのね?」

「そうじゃ。全てを思い出したか?」

「ええ」


ユーピテルは満足そうに微笑み、ソファに「よっこらせ」と座った。

人間に擬態している時の彼と同じ様な行動に、レティシアは苦笑し、彼の前に紅茶を入れてお茶菓子を並べる。

妖精や精霊は食べる行為をしないが、このユーピテルは人間に擬態している間に、スィーツの魅力に嵌り、お茶とお茶菓子をこよなく愛していた。


レティシアに出された紅茶を、香りを楽しんでから一口飲む。満足そうに微笑んでから、マドレーヌを一口、この世の至福を味わう様に、噛みしめる。


「人間の時間は、ほんにあっと言う間じゃのう。わしがちょっと研究に没頭している間に、気づいたらレティが森から出ておったわ」

フォッフォッフォッと笑いながらユーピテルは紅茶を飲む。

「本当はお主が妖精と共存出来るようなったら、魔力の底上げをしようと思っておったのに」

「魔力の底上げ?」

「そうじゃ、小さい時はその器いっぱいに莫大な魔力を持っておったが、使わんかったせいで今じゃ先細りじゃろ? 大人の器の割には、魔力はカスカスじゃ。

精霊を2人呼んだだけで、力尽きたんでは無いか?」


見ていたかのように話すユーピテル。


確かにこの間、レティシアはウンディーネとアスクレーピオスを呼んだだけで倒れてしまった。


「意思の疎通できる精霊は、お前の魔力を供給する事によって、奴らの力を使わせてもらえる。それが精霊術じゃ。しかし精霊達に奪われる魔力は莫大じゃ。だから魔力の底上げをしなければならん。

精霊のランクによっても必要な魔力量は違う。


たとえば、先日ウンディーネとアスクレーピオスを呼び出して倒れたのじゃろ? アスクレーピオスはウンディーネ、ノーム、サラマンダー、シルフより力が必要じゃ。だからもし、あの日呼び出したのがウンディーネとノームであれば、倒れる事はなかったじゃろう。反対に、もしわしを呼んでおれば、もう他の精霊を呼べんかった。

まずは色んな精霊を呼んでみなさい。そして奪われる魔力量を感じるのじゃ。

魔力が必要な程、精霊は顕在する大きさが小さくなる。ウンディーネよりアスクレーピオスが小さいのも、わしがアスクレーピオスよりもさらに小さいのもそれが理由じゃ。


そうやってどれだけの精霊が呼べるか、彼らの力を使えるかを体で覚えていきながら、並行して魔力の底上げをしていこう」


「どうすれば底上げできる?」

「まずは体力作りじゃな」

「・・・・・え?」


レティシアは少し疑う様な目つきで、目の前の賢人(もとい精霊)を見つめる。

彼の髪も眉も髭も、真っ白でとても長い。

その為、彼の表情はいつも見えていないから分からないのだ。

なのに、彼の表情は笑顔であると、人々にデフォルトで認知されている。


「何事も体力が基本じゃ。

そして体力作りと並行して、毎日魔力を使い続けるのじゃ。昔みたいに精霊達と遊んでおったらよいわ。アンハルトの森とは違い、ここであ奴らと遊ぶには、ずっと魔力を吸われ続けるからの」


ユーピテルは、自分の長い白い髭をゆっくりと触りながら、レティシアの目を覗き込む。


魔力切れを起こして倒れると、寝て起きても疲労感がすぐに取れず、慢性的に体が重くなるのだ。


それは体力の無い女子にとっては、とてもつらい事だった。



しかし、全ての人々を守りたいという意思が無いなら、そこまで努力しなくていい。

学園の火事の時の様に、レティシアは出来る範囲で人々を守るだけでも、力の無い民達はそれだけでレティシアに感謝するのだから。


全員を守るのは、別にレティシアの使命でも何でも無い。


出来ないなら、出来る範囲で問題無いのだ。



レティシアは試されているような気がして、白い眉毛にほとんど隠れているユーピテルの瞳を見つめた。








「やるわ。もう誰も傷つけさせたくない」




レティシアは真っ直ぐにユーピテルを見つめた。




ユーピテルは、レティシアの瞳に、初代女王の意思を見た気がして、レティシアに優しく微笑んだ。










それからの日々、レティシアは体力作りをしながら、常に精霊と共にいるよう、彼らを側に置き続けた。










しかし、彼女の魔力が底上げされたと感じる前に、新たな事件が起こったのだ。







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