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【完結済み】愛し子のトリセツ  作者: 西九条沙羅
第二章

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34/50


轟轟(ごうごう)と燃え盛る炎は、図書室を含む一棟を飲み込むほど大きかった。



アビゲイルに止められたレティシアだったが、学園にはベルティーナやフランシスカがいる。

しかも昼休憩には、ランチを終えたべルティーナがいつも図書室を訪れていたのだ。

レティシアは制止するアビゲイルを振り切って、愛馬に乗って学園へ向かった。




そして見たのは ————・・・




パニックに陥った生徒達を救出する教師達。

ケガをし、地面に寝かされている者に取り縋って泣き叫ぶ者。

地獄絵図のようだった。


セラとリタを連れて追いついたアビゲイルが、レティシアに抱き着く。


「レティ姉様! ここは危ないから離れよう!!!」


燃え盛る学園を目の前に、茫然と立ち尽くしていたレティシアは我に返った。



(そうだ! 私に出来る事をしなければ!!!)


「お願い! 雨を降らせてあの炎を消して!!!」


レティシアは妖精達にお願いしたが、辺りを見て愕然とした。


妖精がほとんどいないのだ。


学園には付いて来ないよう、お願いしていたのだ。


(どうしよう、どうしよう、どうしよう・・・!!!)


パニックになったレティシアに、言いつけを守らず付いて来た妖精が、共鳴する。


レティシアを守るように一陣の風が吹く。


そのせいで炎が大きく揺れ、側の木々にも燃え移った。


「違う違う違う! あ、雨を・・・雨を降らせて!!!」


レティシアが大きな声で側にいた妖精にお願いするが、妖精達には上手く伝わらない。


(泣いたらいいんだ、泣け! 泣け!!!)


小さい頃、レティシアが泣くと雨が降った事を思い出し、何とか涙を流そうと試みるが、パニックになったレティシアには上手く感情がコントロールできない。

焦って何も考えられなくなったその時、聞き覚えのある声が図書館の入り口から聞こえた。



「中にまだ人がいる! 早く騎士を呼んでくれ!!!」


そう叫んだのは、オスカーで。

頭から血を流している彼が横抱きにしているのは、同じ様に血だらけで、意識の無いベルティーナ。








———— 困ったら、私を呼んで、レティ ————









真っ白になったレティシアの頭の中で、懐かしい友の声がする。


瞬時に彼女の名が頭の中に浮かんだ。





「助けて! 助けて!!! ウンディーネ!!!!!」





眩く何かが光った瞬間、レティシアの前に現れたのは、水色の長い髪をした人外の乙女。成人した人間の様な相貌をしているが、彼女の大きさは、レティシアの半分も無い。

体は光輝いたまま、宙に浮いている。

その美貌に優しい笑みが広がる。何千年も生きたものの目に親愛の色を浮かべ、レティシアを見る。


その瞬間、膨大な記憶がレティシアの中を駆け巡った。



『やっと呼んでくれた。可愛い子、レティシア。

あなたの望みはなあに?』



レティシアは一粒零れた涙を拭きとり、叫ぶ。


「あの炎を消して!!!」



レティシアが図書室のある燃え盛る棟を指すと、ウンディーネが笑みを深めた。


『問題ない』



そう呟いたと同時に、学園にある池や噴水から大量の水が移動してきて、一斉に炎に被せられた。



周りにいた教師や生徒には、ウンディーネの姿は見えない。

しかし「妖精姫」が炎を消すようにと大声で叫んだら、どこからともなく来た大量の水が、瞬く間に燃え盛っていた炎を鎮火したのだ。




「妖精姫様だ」

「妖精姫様が、私達を救ってくれた!!!」




大歓声が起こる中、いっぱいいっぱいになったレティシアの体がふらつく。


それを後ろから支えたのは、


「レオ・・・」


レティシアは優しく自分を見つめる恋人の存在にホッとし、一気に力が抜けてしまった。

倒れそうになるレティシアを抱き留め、レオナルドがレティシアを横抱きにして、近くのベンチに座らせる。


「よく頑張ったね、レティ。ありがとう。少しここで待っててね」


レオナルドはそう言うと、レティシアをセラに預け、アントンと図書室の方に向かって行った。


レティシアは自分の側で、こちらに向かい宙に浮いているウンディーネと目を合わせた。


「私、どうして忘れていたのかしら。大切なお友達だったのに・・・」


その瞬間、大切な事を思い出し、レティシアは慌てて図書室の入り口近くを見る。

そこには爆発でケガをし、図書室から運び出された人々が寝かされていた。

そしてその中に、大切な親友の姿を確認する。



「ベルティーナ!!!」


レティシアは急いでベルティーナの元へと駆け付け、彼女の容態を見る。

ベルティーナは足を怪我したようで、右足は青紫色に大きくはれ上がり、脹脛から大量の血が出ていた。

痛みからか、冷や汗を掻きながらうなされている。



「ウンディーネ、どうすればいい?」



レティシアは泣きながらウンディーネに助けを求めた。


『レティ、今のあなたなら分かる筈よ。もう思い出したでしょ?

あの森で私達と過ごした日々を・・・』


ウンディーネの言葉で、レティシアは先ほど蘇った記憶の中から、もう一人を呼ぶ。


「アスクレーピオス・・・」


レティシアが声に出すと、先ほどと同じ様に眩い光の中から、黄金色の巻き毛の人外の少年が姿を現した。

ウンディーヌより一回り小さい少年。彼の体も眩く光輝いていた。


『遅いよ~、レティ!』


アスクレーピオスはくるっと空中で宙返りして喜びを表した後、レティシアのおでこにキスをした。


「アスクレーピオス。お兄様の時みたいに、私の大切な友達を助けてくれる?」


レティシアが寝かされた人々を指すと、アスクレーピオスは親指を立てて快諾する。


『問題ないよ~』


そう言って、手に持っている杖を振るうと、寝かされていたケガ人達が眩く発光し、大勢が見守る中ケガが見る間に治っていった。



図書室の入り口で陣頭指揮を執っていたレオナルドは、驚愕の表情でその光景を見つめる。

妖精の見えないレオナルドだったが、普段レティシアの側に長くいたためか、強い力を発現するウンディーネやアスクレーピオスの、姿は見えないが存在は感じる事が出来た。

そして、さっきウンディーネを呼んだレティシアが倒れそうになっていた理由がパニックのせいではなかったとしたら。

レオナルドは急いでレティシアの側へ駆け寄る。




その場で奇跡を目の当たりにした人々が一人、また一人とレティシアに敬意を表して(ひざまず)く。

そんな人々の合間を縫ってレティシアに近づいたレオナルドは、真っ青な恋人の顔を見て、叫び出しそうになった。



崩れ落ちそうになったレティシアを、すんでの所で抱き留めたレオナルドは、きつくレティシアを抱き締めた。







その姿を、木陰から見つめていたフリーダは、辺りを見渡した後に腹心の侍女を連れてその場を後にした。




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