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【完結済み】愛し子のトリセツ  作者: 西九条沙羅
第二章

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32/50

学園に通わなくなったレティシアだったが、毎朝学園に通っていた時と同じ時間に起きる。


今日も同じ時間に、朝食の為に食堂へ向かう。



「お早う」


朝から後光差すような笑顔を浮かべるのは、


「お兄様・・・」



レティシアは数週間ぶりに見る、人外の美貌を持つ兄の笑顔を見た瞬間、涙が込み上げてきた。


「まずは朝食にしよう。しっかり食べないと、妖精達が不安になってしまうよ?」

「はい!」


レティシアは目に溜まった涙を拭いて、エリアスと席に着いた。






「私には何も無いんです。何も出来ない」


レティシアは食後の紅茶を飲みながら、ここ最近ずっと悩んでいた事をエリアスに話した。


レティシアが思いを吐き出し切るのを、エリアスは優しい笑みを浮かべたまま、黙って聞いていた。

レティシアは少し不安になり、上目遣いにエリアスを見た。


(がっかりしたかしら・・・)


レティシアは早速弱音を吐いてしまった事に後悔したが、目があった瞬間、エリアスはいたずらっ子の様にレティシアに笑いかけた。


「何で、何も無いなんて発想になったのかな? レティシアは「愛し子」じゃないか。

それって、唯一無二でしょ?

どうしちゃったの???」


「・・・へ?」


あっけらかんとしたエリアスの言葉に、レティシアは素っ頓狂な声が出た。


「でも、それは、私の魂に刻まれたもので、私の努力で得たものじゃないわ。

私自身が得たものなんて、何一つ無い」


「じゃぁ僕にも何も無いよ。安心して? 兄妹揃って不出来だね」


エリアスは、ここに淑女令嬢がいたら鼻血を噴いて倒れてしまいそうな、無垢な少年の様に笑った。


「お兄様は違うわ!」

「何で? 同じだよ。

僕は情報収集が仕事だけど、それはこの”顔”を大いに使っているんだ。この顔で微笑めば誰だって何だって話してくれるんだよ、面白いほどにね!

つまり、僕が上手く話したりする必要が無いんだよ。

この顔さえあれば、話術に秀でてなくても、読心術を会得しなくても簡単だからね。

でもこの顔は、両親の・・・、父様は関係ないね。ふふ。 

この顔は母様のおかげで、僕の努力で手に入れたものじゃないものね。


つまり僕も何も無い人間だよ。

レティと一緒だね」


エリアスの笑顔を見てレティシアは、彼がレティシアを慰める為に嘘をついたと思えなかった。


「昔、アンハルトの人間は魔法を使えた事は知ってるよね?

魔法使いには二種類いて、体内のマナを使って呪術を発動する呪術師と、妖精や精霊の力を使う精霊術師がいたんだ。

もちろん、魔法を使えない人からすれば、精霊術師も立派な才能だよ。

今この世界に、妖精達を使えるのはレティシアと母様だけだ。

それなのに自分には何も無いだなんて・・・。


恋をすると女の子は弱い生き物になっちゃうって母様が言っていたけど、本当だったんだね」


エリアスにニマニマと微笑まれて、レティシアは顔を赤くして俯いた。


「レティが、あの外面だけはいい王子の、煩悩の塊の様な頭の中を覗けたら、一気に解決するのに」

「え?」


エリアスは、そっと呟いて窓の外、遠くを呆れた様に見つめる。

しかしその呟きはレティシアには聞き取れなかった。



「冗談はさておき、君があの森で耐えた修業は何だったの?

あれが努力で無いのなら、一体何が努力だって言うの?」


エリアスは真剣な目でレティシアを見つめた。その心の奥を覗くように。

ここで間違えれば、レティシアは殻に閉じこもり、開花出来なくなってしまう。

強く押してはいけない。しかし間違えないように道を指してあげなければ・・・。


その瞬間 ——————————————・・・




もう一度、レティシアを安心させる様に微笑んだのは・・・


「レティシア、この世で唯一の「愛し子」よ。 

お前にしか出来ない事がある。

お前はきっと出来る」


「でも、妖精達は、私の感情に共鳴するだけで、今回の爆発事件では、私に出来る事は何も無いわ」



レティシアは気づかなかった。

いつも「レティ」「君」と呼ぶ兄が、自分への呼び方が変わった事を。

先の言葉は誰からの助言だったのか・・・。



「何かを忘れている筈だ、愛しい子。

自分の記憶の奥にある、森での日々を思い出しなさい。

そうすれば、お前の望みを叶えてくれるモノに、また会えるだろう・・・」



エリアスなのか、はたまたは違う人外のモノなのか、エリアスの形をした者がそっとレティシアのおでこに祝福のキスを落とす。


レティシアは、魔法をかけられた童話のお姫様の様に、静かに瞼を下ろした。







————           —————



「どうちて?」



————     だから、      —————



「イヤイヤ!」



小さなレティシアは大きな瞳から涙を零し、首を大きく振る。




————    、わたしを     —————



「また、あえる?」



————      呼んで。—————







「ばいばい!  〇〇〇〇!!!」










「はっ!!!」



レティシアは眩しい光の中、自室のベッドの上で目を覚ました。



(何か、夢を見ていたような・・・)



レティシアはそっと自分の顔に触れて、自分が泣いていることに気づいた。

そして、自分が夢の中で泣いていたことに気づく。


(何で泣いていたんだっけ・・・?)


無意識に時計で時刻を確認しながら、ベッドから起き上がった。



何だか懐かしい、温かい感情が自分の中にあるのが感じられる。


その瞬間、レティシアの近くを誰かが通った感じがした。


いつも通りふわふわ浮いている妖精達の誰かだったのか・・・。


(それとも別の何か?)




時刻は既に深夜で、レティシアがベッドルームから自分の部屋の居間に顔を出すと、メイドが居間の端の椅子で、うつらうつらとしていた。

起こすのは可哀そうで、そのまま部屋の外に出ようとした時、メイドがもの凄い動きで起きた。

レティシアはただのメイドだと思っているが、実はレティシアのメイドは全て、公爵家の影の部隊の人間である。


妖精がいるからレティシアの安心は守られてはいるが、何かが起こった時に、レイラやエリアスが居ればよいが、いなければアダルウォルフは妖精と意思疎通が出来ない。

しかし家の中まで騎士がいると落ち着かないだろうということで、レティシア付きのメイドは全て戦える人間で揃えたのだ。

その為、メイドを起こさない様に行動しても、少しの振動でもすぐに起きたのだ。

その前に、夜番のくせに寝るなと言いたい。このメイドは15歳で、まだまだ影の中では下端であった。

アダルウォルフにバレたら、このメイドは恐怖の強化合宿へと送り込まれる事であろう・・・。




「レティシア様、何かございますか?」


自分がうたた寝しそうになっていた事に気づいたメイド(15)は、冷や汗を掻きながらも、何事も無かったかのようにレティシアに御用聞きする。


「ごめんなさい。少し小腹がすいて」

「今日は朝食後、何も召し上がられていらっしゃらないですものね? 直ぐにご用意致します!」


メイド(15)は自分の失態をカバーする様に俊敏に動き、物の数分で温かいスープとサンドウィッチを持って戻ってきた。


「お父様やお母様、エリアスお兄様は?」

「エリアス公子様と旦那様は、今日は戻られておりません。奥様は今日夕方に戻られて、今は就寝されております」


ハーブティを入れながらメイドがレティシアに返事をする。


「そう」


少し寂しそうに返事をしたレティシアを心配そうに見るメイド。

しかし彼女の心配をよそに、レティシアは目の前の食事に手をつける。



今自分に出来る事をすればいいのだ。


レティシアは決意を新たに、そしてエリアスが言ったように、とりあえず戦を前に腹ごしらえをする事にした。





そして、メイドよ。人の心配をしている場合ではないのだ。天井にいた別の影が、メイド(15)の失態をしっかりと見届けており、アダルウォルフに告げ口される事がこの時既に確定していた。

翌日より、恐怖の強化合宿へと送り込まれたメイド(15)は、一年以上レティシアの前には姿を現さなかった。



レティシアを心配そうに見るメイドと、メイドを見つめる天井の影。冬の夜はまだまだ深く、朝日の訪れにはまだ早い。




安心してください。レティシアについている影は全て女性です。

男性の影を付けるなど、レオナルドが文句を言う前に公爵が許しません。

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