表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結済み】愛し子のトリセツ  作者: 西九条沙羅
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/50

⑥ レオナルド side



何なの?


私の方が頑張っているのに。


何で会社も、上司も、私の努力を評価してくれないの?


10年以上、私は身を粉にして働いてきたのに。


努力してきたのに。


4,5年働いただけの、愛想がいいだけのあんな女が何で評価されるの!?


くやしいくやしいくやしい


むかつくむかつくむかつく


皆いなくなっちゃえ!!!!









~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~








レオナルドは東の離宮の回路を、怒りを表すように大幅な足取りで歩く。

アントンとオスカーは早足で歩くレオナルドに置いていかれないよう、小走りで後ろをついていく。



「殿下」


前方、離宮の正面扉に佇む女性は、



「ミッテェルズマン嬢」


黒髪に黒目の、神秘的な雰囲気を醸しだす小柄な少女を、レオナルドは真正面から凝視する。


先ほど対面した女性とは、全く対極にいるかのような容貌をした、まだ少女の様な儚げな笑みを浮かべたアラリケは、レオナルドに目礼をして、そっと応接室の方へと彼らを誘導する。


レオナルドの脳裏に、先ほどの会話が反芻された。





「どういう意味ですか?」


出されたお茶に口もつけず、レオナルドは前に座るミュンスターの皇女を凝視した。

口元を扇で隠し、流し目でこちらを見つめて来るフリーダは、学生とは思えないほど艶めかしい。

片眉を上げて訳知り顔でレオナルドを一瞥し、フリーダは口を開いた。


「・・・そのままの意味ですよ。

わたくしをあなたの婚約者にしてくださるのなら、あなた達が頭を悩ませている”アレ”が何なのか、教えて差し上げると、言っているのですよ」

「しかしあなたは、現在ミュンスターの後継者ですよね? 私と婚約をしたら誰が次代の国王になるのですか?」


レオナルドは驚きを隠せなかった。

四年前、リンゲンに婚約の打診があった時、ミュンスターには皇太子がいた。

フリーダの兄だ。

その為、フリーダがリンゲンに嫁いでくることは、何の問題もなかった。

しかしフリーダの兄は、リンゲンが婚約の話を断るのと同じ頃、落馬事故に合い命を落としたのだ。

なので、現在フリーダが時期女王と目されている。


「・・・あの国は十年前まで戦争をしていて、今でも領土を広げる為に戦争をしかけています。

わたくしはもううんざりなのですよ。

この大陸は、長い間戦争も起きず、友好的にそれぞれの国が問題なく統治している。

ルネッサンスの華が開いたこの国で、美しい物に囲まれて優雅に生きたいわ。

・・・血生臭いのはうんざりなの」



レオナルドは目の前のモノが、自分と同じ、血の通った人間だとは思えなかった。


そんな理由で、自分の国を捨ててリンゲンに嫁ぎたいというのか?

多くの人間が亡くなっているのに、その解決の糸口を知っているかもしれないのに、それを交渉に使うのか?

そもそも何故皇女が”アレ”を知っているのか?








「私に何か話ですか?」


通された応接室で、ソファに座りもせずにレオナルドは口火を切った。

フリーダの交渉に返事をせず、離宮を出る前に今度はその従姉に呼び止められたのだ。



アラリケは少し困った様に眉根を下げた後、盗聴を恐れるかの様にキョロキョロと辺りに視線を送った。

その後、先にソファに腰を下ろして、自分の前に手を差し出す。

レオナルドは、先ほどの会合の相手の従姉である目の前の少女と、どう接するべきか逡巡した。

しかし彼女の意図が全く掴めないので、結局彼女の希望通りに、彼女の前のソファに腰を下ろす。

アントンとオスカーは、レオナルドの後方に立つ。


「フリーダから、何か聞けましたか?」


レオナルドはアルカイックスマイルを浮かべたまま、アラリケの本心を読もうとする。

アラリケは少し緊張しているようで、周りを気にするようにそわそわと自身の指で指を弄ぶ。


「あなたは何かご存じなのですか?」


微笑みを崩さぬまま、アラリケを刺激しない様に優しく話しかける。


「爆発物の名前は、ミュンスターでは”爆弾”と言います。

錬金術でいくつかの材料を混合して作られた黒色火薬で作ります。

これは大砲で使われる火薬の何倍もの威力があります。

こちらに時計を仕掛ける事によって、設定した時間に爆発が起こります。

今回、リンゲンの港で起こった爆発は、これによるものでしょう・・・」

「・・・」

「・・・」



レオナルドとアントンは表情を取り繕う事が出来ず、驚愕に顔を歪めた。


「ミュンスターでは、大砲や銃の技術が進歩しているとは聞いたが・・・。

その”爆弾”という物を使えば、戦争のスタイルが変わるんじゃ・・・」


「はい。その結果、ミュンスターは二年もしない内にテューリンゲン大陸にあった三つの部族を制し、ミュンスター帝国を築きあげました。

・・・フリーダが8歳の時です」


「な、・・・にを」


「・・・証拠はありません。爆弾の設計図は、軍部大臣の机に無記名で置かれていたそうです。対外的にはそうなっていますが、皇帝だけは誰が作ったのかを知っているようでした。

ただ・・・、フリーダのお兄様であった当時の皇太子殿下が、フリーダに疑念を抱いて彼女の周りを調べ始めた途端、お亡くなりになりました」



レオナルドは先ほど会合したフリーダの様子を思い出していた。

何もかもを見透かすような薄い水色の瞳。泰然とリンゲンの王太子と交渉する皇女。

信じられない。

レオナルドは急に喉の渇きを覚え、唾を飲み込んだ。

何故ならば・・・。


「信じられないのはごもっともです。

設計図をフリーダが作成したのであれば、爆弾を作ったのは、彼女が6歳の時になりますから」







自室に戻ったレオナルドは、アントンが入れてくれた水を一気に飲み干す。

異様に喉が渇いていたのだ。

アントンは次に心を落ち着かせるハーブティを入れた。自分とオスカーにも。

レオナルドの自室のソファに、向かい合って座り、一言も無くハーブティを飲む。

オスカーは状況が理解できず、ただオロオロと二人を見つめた。


今日はやたらと時計の音が気になる。


レオナルドは部屋に置かれている時計に視線を向けた。

時を告げる時計。それを使って好きな時に爆破出来る”時限爆弾”。

レオナルドは片手で目を覆い、大きく息を吐いた。



「異世界の魂でしょうか?」


アントンは、とある少女を思い浮かべていた。

こことは違う世界での、前世の記憶を持った少女がやらかしたのは、ついこの間の事だ。


レオナルドは目を覆っていた手を、そのまま下にスライドして、今度は口元を覆う。


「そうだろうな。エリアスも言っていた。異世界と繋ぐ道が出来てしまったと・・・。

しかし一体どんな世界なんだ。

一瞬で、多くの人の命を奪える兵器を作れる民族とは・・・」


リンカは取り調べで、前世について語った。

しかし、精霊王のビジョンで二一世紀の世界を見たエリアス以外は、リンカの話す世界について、全く理解が及ばないのだ。

なぜならばリンカには、二一世紀の社会にあったテクノロジーの原理を、伝える知識がなかったからだ。



「とりあえず父上と宰相に報告しよう」


レオナルドは得体の知れない敵に、この国が、この世界が呑み込まれてしまう気がして、恐ろしくなった。





「はぁ~。 レティに会いたい。チューしたい。ギュッとして欲しい。頭なでなでして欲しい。首元に顔を押し付けて匂いを嗅ぎたい」

「最後だけ、ただの変態でしたね」


レオナルドの変態発言を受けて、アントンは国王へ謁見の要請をする為に、重い腰を上げた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ