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「あれ? わたくしここから出てくるの、正解でした?」




誰もが固唾を飲んで見続けた。


平伏したくなるほどの美貌の少女を。


彼女の一挙手一投足を。



そんな中、支配者の傲慢さで、見られる事への円熟で、ただ一人時を動かしていた少女は、同じ様に壇上にいる少女を見つめた。




全てを見透かすような虹色の瞳で。


その瞳を持つのは、この世界でただ一人。


精霊王様の愛し子 ———————






「この子が私の妹、レティシア・オルティース。

世界でただ一人の、精霊王の愛し子だ」



大きな声を出したわけでもないのに、エリアスの声は会場中に響き渡った。

その言葉を理解した週間、会場にいる全ての人間がその場に膝を折った。









「あ」






っぶね~~~~。 俺も膝を折るとこだった!!!





心の中で冷や汗をかいている婚約者へ、レティシアは両手を差し出した。


「レオ」


愛しの婚約者に呼ばれて、レオナルドはいそいそと壇上へあがり、彼女と両手を繋ぐ。


満面の笑顔で出迎えられた。可愛い・・・。





「役者が揃ったのでもう一度聞こう。

君をいじめたのは、そこにいる、レティシア・オルティース公爵令嬢か?」




「え?・・・あ・・・え?」


リンカは一体何が起こっているのか、自分が何処に居て何をしているのか、何も考えられなくなった。

ただ会場中の人間から白い目で見られ、自分が大量の冷や汗を搔いていることだけは分かる。

顔面を蒼白にし、目の前の空間を凝視している少女が、最早何も考えられないほどパニックになっていることに気づいたレオナルドは、一旦この茶番を終わらせることにした。

控えていた騎士に目配せをする。



「連れていけ。

後で法務部の人間も交えて話を聞こう。

彼女は別室へ。

マインツ男爵夫妻も呼んでおけ」


「はっ」


騎士に促されても、リンカは思考が追い付かず歩くこともままならなかった為、最後には引きずられるようにして舞台から、

そして会場から連れ出された。



誰もが固唾を飲んで見守っている中、レオナルドはレティシアに微笑みかけ舞台の真ん中迄エスコートをする。



「先ほどエリアス・オルティース公爵令息が紹介したが、改めて私の口から、愛しい婚約者を紹介させてくれ。


彼女はレティシア・オルティース公爵令嬢。

彼女の母親が妖精の「愛し子」様であることは皆も既に知っていると思うが、彼女は精霊王様の「愛し子」様だ。

精霊王様の「愛し子」様が生を享けたのは、この世界の始まり以来、およそ1500年ぶりの事となる。

その為、彼女は昨年までアンハルト王宮の森、精霊の始まりの森に秘されていた。

縁あって、私と愛し合い結婚を誓い合ったのだ。

新年度よりそこにいる、皆がオルティース公爵令嬢だと思っていた、アビゲイル・アンハルト王女と共に、この貴族学園に通う事となった。


みな、よろしく頼む」





「わぁ――――――――!!!」




大歓声の中、レオナルドとレティシアは微笑み合い、そのまま舞台を降りてホールの中央へ。

楽団がワルツを奏で、次代の王と「愛し子」の初めての踊りを、会場中の人間が頬を染めて眺めていた。





エリアスはゆっくりとその場を後にし、騎士と一緒にある部屋へ向かった。




足を止めたのは貴族向けの牢。

まだ罪の確定していない少女を入れるには、いささか嫌がらせを感じないでもないが。


エリアスは扉の前に立つ騎士に笑顔を向けると、騎士は頬を赤らめて敬礼をした。



「殿下から話は伺っております。

関係者が集まるまでには時間はありますが、その・・・」

「分かっているよ、そんなつもりはない。

話をするだけだ。

この細腕じゃなにもできないよ」


「は!

すみません、邪推しました!

どうぞお入りください。」



エリアスは騎士に促されて、貴族牢のある棟を進んでいく。







その頃、貴族牢にある一室の中でリンカは、状況を見極めようと必死に頭を動かしていた。



一体全体どうなってんの???

確かにあれはゲームの中のレティシアよ!?

は?

アンハルトの王女!?

え?

もしかしてゲームの中でもそうだったの?


分からない・・・。

もしかして、ゲームの中でもそうだったの???

分からない・・・。

レオナルドばっかり攻めないで、全ルートやっときゃ良かった・・・。


どうしよう、どうしよう、どうしよう・・・。




どうなるの?

私、どうなっちゃうの???



どうしよう、どうしよう、どうしよう・・・。






その時、エリアスが響かせる足音を聞いたリンカは、誰かが助けてくれるんじゃないかと、期待を胸に顔を上げた。

先ほどレティシアの兄だと言っていたエリアスが、鉄格子の向こうに立っていた。


その時、確かにリンカはしっくりときたのだ。



人とは思えない美貌を持って生まれる妖精姫。

彼女の娘。

レティシアと思っていたアビゲイルと、先ほど初めて対面した妖精姫の娘、レティシア。

確かにこの青年がオルティース公爵令息なら・・・。










「君に、前世の記憶はあるの?」




エリアスの質問にリンカは茫然とし、始めは外国語を聞いたかのように意味が呑み込めなかった。

だけど、じわじわとその意味を理解すると、自分だけが知らずに情報操作されていたような、騙されていたようなこの状況。


リンカは一つの可能性に考えが辿り着き、瞬時にカッとなり叫んだ。



「あなたも転生者だったのね!?

これ、ざまぁ返しね!?

私の事騙したんだわ! 最っっっ低!!!」


自分がしたことを棚に上げて、リンカは鉄格子を掴んで大声で喚いた。

理解が追い付かない頭が、全てを拒否するように大声を出させる。

下品な大声に、エリアスは微かに眉間にしわを寄せた。



「なるほど、やっぱりそうか。

バックがいるのかと思ったけど、全体的に杜撰なこの計画を見るに、それも無さそうだ・・・」




エリアスは、興味を失ったかのようにリンカに背を向けた。



「ちょっと! 私の質問に返事しなさいよ!

あなたも転生者なの?」


「それを知ってどうするの? 君はもう終わりなのに」

「え・・・?」

「だってそうでしょ? 君、不敬罪を働いたんだから。

その相手が、隣国の王女になるのか「愛し子」になるのかは、僕にはわからないよ。

興味もないし。

でも、どちらへの不敬罪でも・・・、ねぇ?」



エリアスは緩慢に振り返って、心底どうでも良さそうに呟いた。



リンカは絶望へと落とされた。



「特別に教えてあげるよ。

僕は転生者じゃないよ。

ただ精霊王様にビジョンを見せてもらっただけ」


エリアスは、人々を魅了する微笑みを浮かべながら語った。




「精霊王様によると、その異質な魂がこの世界に現れたのは昔の事だったのか、つい先日の事だったのか。

永遠を生きる精霊王様は時間の感覚が人間と違うから、その辺は曖昧みたい。

本人もそこは重要じゃないからなのか、特定する気もないみたいだし。


その魂は、別の世界で寝たきりになってしまった少女の魂だということは、分かったみたい。


特に何かをするわけでもなかったから、その魂がこの世界で揺蕩うことを精霊王様は許した。


ある日その魂は自分の世界に戻り、その後その魂の持ち主である少女は、自身の生を歩む中でこの世界を元にしたゲームを作った。

それがここの未来なのか、または違う世界線なのか、異世界に戻った少女の魂を精霊王は追えなかったから、それはよく分からない。


しかし少女がそのゲームを作ってしまったため、そちらの世界とこちらの世界に道が出来てしまったのだよ。


その道を通って流れ着いた異質の魂が、きみだ」


リンカはもう何も聞いていなかった。


「レティシアには大きな使命がある。

その為に生まれた子だ。

君の様な小物に付きまとわれてる場合ではないんだよ」



エリアスは今度こそ本当に、興味を失ってその場を離れた。










会場ではレオナルドとレティシアが踊っていた。





一つの憂いを避けることができた二人は、お互いを見つめ合い踊っていた。






世界でたった二人だけになったかのように・・・。














自分たちの未来が、明るく照らされていることを信じて。










こちらで一旦完結となります!

皆様、ありがとうございました!!!

始めての長編、手探りで進めて参りましたが、何とか出来上がって感無量でございます。

誤字脱字報告、いつもありがとうございます!

感想も頂けましたら嬉しいです^^



番外編何作か出来ておりますので、そちらも順次投稿していきますが、

第2章はある程度書き溜まるまで投稿はストップしますので、ご容赦くださいませ^^

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