⑳
卒業パーティの会場に、レオナルドは一人で入場した。
辺りを見渡しながら、何人かと軽く挨拶をする。
目線の先にリンカとオスカーがいた。
オスカーと目があった瞬間、オスカーが眼力を飛ばしてきた。
(え? 何? 今の・・・。 アイコンタクト? 何かのメッセージ?
でも、俺は騎士じゃないから、暗号は知らないよ???)
レオナルドは大いに悩んだ。
しかしすぐに思い直す。
(待て待て、惑わされるな。 あいつは”脳筋”オスカーだ。
さっきのには意味はない。
あったとしても「俺、ちゃんと見張ってるっす!」ぐらいだ)
レオナルドはオスカーの眼力飛ばす行動に意味は無いという判断をした。
ここで解説をしておこう。
さっきのオスカーの行動に意味はない。
レオナルドの読み通り、「俺、ちゃんと見張ってるっす!」と伝えたかっただけである。
これが伏線で、レオナルドが読み違えたせいでレティシアに魔の手が伸びる!なんて事態には起こらない。
”脳筋”オスカーのせいで伏線回収を期待されるところであった・・・。
学園長のあいさつでパーティは始まった。
そこでヒロインターンであった、あのセリフである。
「———————— だから、私の手を取って!!!」
・・・はぁ?
レオナルドは混乱中だった。
え?
何? この子、頭悪いの・・・?
何か陰謀企んでいるのかと思ったのに。
え? めっちゃ頭悪くない?
え? 何で自分が愛し子になれるって思ってるの?
おーい! リンゲンでは愛し子は生まれないんだよー?
レオナルドが頭の中で突っ込みを入れている時 ———————。
「・・・ふ。 ふふふ」
楽しそうに笑ったのは、エリアスだった。
エリアスの笑みにあてられて、周りの女子学生が倒れてしまった。
その事で、会場中の人間がそちらに目を向ける。
「ねぇ、君。誰にいじめられてるって? そのいじめた人間、ここにいる?」
エリアスに微笑まれて、リンカは真っ赤になってもじもじした。
「レティシア・オルティース。 あなたの横にいる白銀色の髪の人よ。」
(おい! 俺に色目使っておいて、エリアスがちょっと微笑んだだけでもじもじしてんじゃねーよ!)
「この子?」
エリアスはアビゲイルを指して再度聞いた。
「そうよ。 さっきあなたがエスコートしてたじゃない。
ねぇ、あなたのお名前、教えてくださらない?」
リンカの発言にエリアスは冷めた目を返した。
美人の無表情程恐ろしいものはない。
周りの人間が恐怖に震え始めた頃、エリアスはアビゲイルに向けて、飛びっきりの笑顔で話しかけた。
「アビー! 君、いつからレティになったの!?」
「なってない。 あいつ不敬罪で処刑していい?」
エリアスは、また恐ろしい事を無表情で言うアビゲイルの頭を優しく撫でた。
それを見てまた周りの女子が(一部男子も)倒れた。
(エーリーアース~。 何人気絶させるの!?
これ以上証人が減るのは困るんだけど!!??)
「この子はアビゲイル・アンハルト。
私の可愛い従妹であり、アンハルト王国の王女だ」
エリアスの一言で場がざわつく。
「君、さっきアビゲイルにいじめられたって言ってたでしょ?
アビゲイルが君をいじめる理由って、なに?」
エリアスがじわじわとリンカを追い詰めていく。
「え?・・・え?・・・」
リンカは状況が把握できないのか、周りを見渡して、そして言葉を無くしてしまった。
「ハ~、つまんない。 ただの小物だったな」
小さく呟いたエリアスの言葉は、アビゲイルにしか届かなかった。
そこに現れたのが。
いきなり舞台に出てきた人外の美貌を持つ少女。
公爵家の財力で作り上げた最上級のドレスに、それを完璧に着こなす、女神。
「あれ? わたくしここから出てくるの、正解でした?」
次回で1部完です!




