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「お兄様!!!」
人外の美貌を持つその人がやってきただけで、景色が色付いたような錯覚を起こした。
4人掛けの丸テーブルに彼が近づいてきたため、
セラがいそいそともう一人分の茶器セットを用意しだし、
アントンがいそいそと自分の席を彼に差し出した。
「ありがとう」
(ポッ)
(アントン、お前あの日、何かの扉が開いてしまったんじゃないか?
俺は心配だ・・・。)
そんなレオナルドをよそに、エリアスは前に座る妹に話し掛ける。
「父上とも話した。
殿下の卒業パーティの日、お前を「愛し子」として披露する事にした。
来年、学園には「愛し子」として通うんだ」
「わかりましたわ、お兄様」
人外な美貌を持つ兄妹が微笑み合うのを、人内の容姿の人間が頬を染めて見つめる・・・。
「殿下としては、妹を「愛し子」として自分のいない学園に通わせるのは心配でしょうが、この国の国民の洗脳具合をみると、公表した方が安全だろうという事になりました」
(言っちゃった。 もう洗脳ってどうどうと言っちゃった・・・。)
誤魔化す様に微笑んだエリアスに、レオナルドは少し頬を染めて咳ばらいをした。
「コホン。
その件は承知した。
以前より陛下からも、その方が良いのではないかと打診され、調査していたのだ。
問題は、あの男爵令嬢なのだが・・・」
「その件は大丈夫ですよ。
あの子はこれ以上何もできません。
卒業パーティで自爆するでしょう」
エリアスは、全てを魅了するような微笑みを見せて、優雅に紅茶を飲む。
誰もが魅せられる姿だったが、「さすがお兄様・・・」というレティシアの一言で、レオナルドは一早く現実に戻ったのだった。
「もう冬も終わりね。庭園のモクレンはいつ頃咲くかしら?」
手をつないで温室を歩くレティシアとレオナルド。
「私達が初めて会ったのは、初夏の日差しが暖かい時だったのに」
レティシアは一歩後ろを歩いていたレオナルドに振り返った。
「何を考えていたの?」
あの子の事???
レティシアは少し不安だった。
レオナルドを信じているが、リンカに会ったことが無いレティシアには、見えない敵が大きく見えたのだ。
それを聞いたら全員が、「あなたに比べたら路傍の石です。心置きなく蹴飛ばしてください!」と、心から言ったであろうが。
「どうやったら、エリアス殿に勝てるのかなって、・・・考えてた」
まさかの発言に、レティシアは口がニヨニヨした。
(何でこんなに可愛い事言うの? この人は)
「お兄様はお兄様で、あなたは私の愛する人よ。
アビーの時にも言ったけど、比べないで?」
「うん・・・」
(うん、って!!!
心臓が鷲掴まれる!!!!)
レティシアは立ち止まって、両方の手をレオナルドと繋いだ。
レオナルドは前に立つレティシアの瞳をのぞき込む。
自分を囚えた虹色の瞳を。
「やっと目が合った」
レティシアは前に立つレオナルドの瞳をのぞき込む。
自分を囚えた紫色の瞳を。
レティシアは背伸びをしてレオナルドにキスをした。
頬を染めて、トロンとした瞳でレティシアを見つめ返す紫の双眸。
(可愛い人)
妖精姫に囚われたレオナルドは、優しく微笑むレティシアに背中を押された気がして、今度は自分から唇を重ねた。
何度も何度も角度を変えて。
俺のものだよ・・・。
そう、レティシアの中に刻み込む様に・・・。
レティシア小悪魔説浮上!




