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レオナルドとしてもアビゲイルの心情を思ったら、ここリンゲンでしがらみを忘れて、普通の学生(「愛し子」様の娘が、普通の学生生活を送れるのかも甚だ疑問だが)をエンジョイさせてあげたい、という思いはある。
だからといって、一国の王太子がこの問題を放置するわけにもいかないので、アビゲイルと同じ1年のAクラスにいるアントンの弟に、アビゲイルの本当の身分については伝えておいた。
これでアビゲイルに何か起こりそうになったら、アントン弟が何とかしてくれるだろう。
(さすがに怪我でもしたら国際問題だからな。)
そして入学式 ——————
高位貴族は、
(あ、・・・あれ???)
となっていた。
それもその筈、高位貴族の親世代は、ほとんどがオルティース夫妻の結婚式に参加しており、「愛し子」様のあの美貌を目にしているのである。
さらにここ2年は、長男であるエリアスも社交界に参加している。
今年からあのオルティース家の長女が入学するとなれば、家族団欒の際にでも、あの一家の話はされるだろう。
なのに長女が普通なのである。
(あ、・・・あれ???)
と、なるのは普通の人間の心理である。
いや、別にアビゲイルが不美人というわけではない。
一般的に見ると可愛らしい顔をしている。
だけど高位貴族というものは、えてして美男美女が多いのだ。
だからアビゲイル自身が、「自分は不細工だ」と自身を卑下しても、仕方のない状況ではあるが、不細工というのは真実でもない。
「しょうがありませんよね。従姉・従兄が人外の美貌ですからね。
神が作りたもうた最高傑作ですよ。
力入ってんな~~~、神! ってかんじ」
「ですよね~~~。
レティシア様とエリアス様は、絶対神様の渾身の力作ですよ!
私のことは、やっつけ仕事でささっと一筆書きで作ったくせに、けしからん」
いつもの休憩時間のアントンとセラの会話である。
「高位貴族が多い、A/Bクラスでは、あれ?っとなってる生徒が多いです。
そして何人かの女生徒が、『そんななりで殿下の横に立つ気か』と嚙みついておりましたね。
その度に弁で論破しているようです。
何人かに裏庭へ呼び出されたこともありましたが、アビゲイル様の侍女のリタが瞬殺しておりました」
(え?・・・ 学校でもう処刑しちゃったの・・・???)
「いえ、取り囲んでいた女生徒が急に消えて自分の目の前に現れたら、貴族子女なんて驚いて腰を抜かしてしまいます。
そこで『やんのか? あん?』ってすごまれて、全員が四方八方逃げていきました。
瞬殺です」
「な、なるほど・・・。
そう言えばリタは影の仕事してたんだっけ。
(学生の振りしてるけど、結構年いってたよね、あの人・・・)」
「それ以来遠巻きにされております。」
「そ、そうか・・・。
まぁ、問題は無さそうだな? 不穏分子はいなさそうか?」
「今はそうですね。
アビゲイル様を遠巻きに睨んでいる女生徒もまだいますが、親に何か言われているのでしょう。
”「愛し子」様の娘” に手を出すことはなさそうですね。 ・・・リタもいますし」
「ではレティ自体が「愛し子」様だとお披露目されれば、妬み嫉みをぶつける者はいなさそうだな」
「そうですね」
その後、これといった問題は起こらず、前期は終了した。
アビゲイルのテスト結果はAクラスの下の方だった。
全体的にはトップクラスだが、どうもリンゲンの古典が足を引っ張ったようだ。
「しょうがない、外国語の古典だからな。
できなくて当たり前だ。
俺だって、アンハルトの古語は知らん。
後は、問題文の読み違えにより回答にずれが生じ、点数に結び付かなかっただけで、理解は問題ないようだ。
母国語じゃない学園のテストでこの点数とれたなら上出来だ。
頑張ったな」
レオナルドはいつもレティシアがアビゲイルにやってあげるように、アビゲイルの頭を撫でてやった。
いつも無表情で冷めた目で人を見るアビゲイルが、少し頬を染めて目線を下げた。
その姿が年相応の16歳に見えて、
やっぱりこの学園に通わせたのは正解だったのかもしれない。
レオナルドはそう思った。
そして後期が始まって、問題が起きたのだ。
あの女出てくるのか~。
だよね~。




