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レティシアが泣き止むまで、レオナルドはレティシアを優しく抱きしめていた。
時々ぽんぽんと背中を優しく叩きながら、もう片方の手で髪をすいたりする。
「結局私たちは、両想いってことで、いいのかな?」
レオナルドに顔をのぞき込まれて、レティシアは頬を染めた。
小さく頷いたレティシアは恥ずかしくってもじもじしてしまう。
恥ずかしいけど嬉しくって、何だかこそばゆい。
レオナルドはその虹色の瞳にまた自分を映して欲しくて、だけど目線があわなくて、もどかしくて、
「ちゅっ」
レティシアのおでこにキスをした。
レティシアはびっくりしてレオナルドを真正面から見た。
レオナルドが本当に優しい瞳で自分を見るから・・・。
ボッ!!!
レティシアの顔はゆでだこのように真っ赤に染まった。
(ヤバい、可愛すぎる!!!)
これ以上進んだらレティシアがキャパオーバーになりそうで、自分は歯止めが効かなくなりそうで、だから今日はここまで。
レオナルドはニヨニヨしてしまう自分の口角を、手で伸ばす。
ボロボロの馬車をUターンさせて、レオナルドはアンハルトの離宮へレティシアと共に戻って行った。
「もうびっくりしたわ!
負の感情をコントロールする修行を完了した筈なのに、婚約者がいるって分かっただけであんな、子供の頃の様に大爆発してしまって。
もうすでにレオナルド殿下に恋してたから、知らない人と婚約してたと思って感情をコントロールできなくなってしまったのね。
レティったら、もう! 恋する乙女は感情がジェットコースターなのね♡
あら? じぇっとこーすたーって何かしら???
まぁいいわ! 今日はお赤飯ね♡」
すれ違っていただけだと分かったレイラはすっかり安心し、乙女の気持ちを大暴露。
同性の母親特有の無神経さで、ティーンの心の中を土足で歩きまくる為、レティシアは恥ずかしさで真っ赤になって涙目になった。
因みに、レオナルドも流れ弾に当たり真っ赤っかである。
ディナーの後、レティシアとレオナルドはレティシアの愛馬に乗って、二人が出会った湖にきていた。
やっぱり乗馬服なんて離宮に置いてなくて。
いつもドレス姿で馬を跨いでいたんじゃないか!と心の中でレオナルドはごちる。
(だけどそのおかげで)レオナルドは、レティシアを自分の前に横乗りで座らせて、後ろからレティシアを抱きしめながら湖までやってきた。
恥ずかし気に視線を彷徨わせるレティシアは、控え目に言っても天使だった。
湖の畔で二人並んで座る。
今回はどちらも話さない。
だけど手は握って。
思い思いに湖を眺める。
「明日リンゲンに戻ったら、今後はこの湖にはなかなか来れなくなるだろう。
レティシアは王太子妃の教育が始まるし、結婚したら王太子妃の政務が始まる。
今までの様に、自由なお転婆姫では居られなくなるだろう。
だけど、私はもうレティシアを手放せない。
ごめんね。
窮屈な世界に閉じ込める私を
どうか許して欲しい」
レオナルドはレティシアの瞳を見られず、前を、湖を見つめながら言葉を紡いだ。
じっとレオナルドを見つめていたレティシアは、レオナルドと同じ様に前を、湖を見つめながら言葉を紡いだ。
「バカ言わないで。
私もあなたを選んだの。
私も、私を窮屈な世界に閉じ込める道を選んだの。
恨むなら、あなたの瞳に囚われた自分を恨むわ」
レオナルドは弾かれた様にレティシアを見た。
「ねぇ、私があの離宮でどんな教育を受けていたと思う?
大好きなお兄様が、お父様がお母様が、無残に殺される幻影を見させられた。
それでも心が揺るがないように。
出来るまで何度も・・・。
でも今日、思ったの・・・。
あなたは、あなただけは私の心の奥に触れてくる。
あなたがもしも私を裏切ったり、私を愛することを止めたら、きっと私の感情は暴走して、妖精は止められない」
レティシアは横にいるレオナルドを見つめた。
レオナルドもレティシアを見つめる。
お互いがお互いに囚われた瞳で
「覚悟してね」
レティシアはレオナルドに微笑んだ。
「怖ぇええええーーーーーーー!!!」
レオナルドは大きな口を開けて、笑った。
レティシアも笑う。
笑いながら抱きしめ合い、そして ————————
二人は唇を重ねた。
いやいや、レオナルド君。
今日はここまでって言っておきながら、もう一歩進んどりますがな!




