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憂い

 ナバール王国の第一王子セルリアンとペリウス伯爵令嬢のナターシャの婚約が決まって1年。

 二人は王立の貴族学園を共に卒業し1年後の結婚式を待つばかりだった。


 ナターシャの王太子妃教育も順調に進み、セルリアンは婚姻すると共に王太子となることも決定している。

 何もかもが円滑に進み、問題はないように見えた。


 しかし二人の心はいつも同じ憂いを抱えていた。

 それこそがヒューゼン公爵令嬢のアリシアの事であった。



 ***



 8年前に行われた城内庭園での子どもたちのお茶会の日、子ども達の声で賑わっていた。


 当時10歳だったセルリアン王子を中心とした集団お見合いのような会で、上位貴族の令息令嬢が集まりお茶や会話を楽しんでいた。


 セルリアンの心は既に幼馴染のナターシャを婚約者にと決まっていた。

 幼い頃よりお互いに想い合っていた二人は手を繋いで庭園の花を見て回っていた。


 勿論護衛も大勢付いていた。従者も使用人も将来の王太子の周囲には目を光らせていた。

 太陽の如く輝く髪に青い瞳の美しいセルリアンを慕う令嬢は大勢いた。

 その令嬢達の中に刺客が交じっていたのには誰も気づかなかった。



 仲睦まじい二人に近づくご令嬢達。

 中心にいるのは美しいシルバーの髪に赤い瞳のヒューゼン公爵令嬢アリシア。

 彼女はセルリアンの婚約者の最有力候補とされていた。

 10歳にして既に取り巻きに囲まれ、アリシアは堂々としていた。


 セルリアンとナターシャが寄り添っている所にアリシアは現れ、見事なカーテシーを披露し声をかけた。


「失礼致します殿下、今日は殿下とお話しするのを皆で楽しみにしていましたのよ」


 ナターシャとの時間を邪魔されて、セルリアンは不快だった。

「そうか、君達も花を愛でると良い」

 セルリアンはナターシャの手を取りアリシアの横を通り過ぎた。


 悔しそうな面持ちのアリシアを無視して通り過ぎた直後セルリアンは突き飛ばされた。


「なんだ!」

 体を起こして振り返るとアリシアが自分の上に覆いかぶさって来た。


「ぐぅ!」

 アリシアが声を上げると護衛の一人がナイフを持った少女を切り捨てるのをセルリアンは見た。


「きゃぁああ!」

 恐怖で叫んだのは手を繋いでいたナターシャ。

 自分と同時に転んで真横に倒れていた。


「ナターシャ!大丈夫か」

「は、はい! でもアリシア様が!」


 大勢の大人たちが駆けつけアリシアを抱き起す。


「アリシア嬢!血が──早く医者を!」

 セルリアンが叫んでアリシアは護衛に抱きかかえられて運ばれていった。


「殿下、お怪我は」

「私は大丈夫だ。アリシア嬢が庇ってくれたのか」


 令嬢の一人とすり替わってアリシア達の後を小柄な刺客は付いてきた。

 化粧室で本物のご令嬢は眠らされており無事に保護された。



 アリシアは肩と背に生涯残る大きな傷を負った。

 父親ヒューゼン公爵は猛然と王家に抗議した。

 警備体制はどうなっていたのか、どう責任を取ってくれるのかと。


 これに対して両陛下は謝罪を述べて、アリシアをセルリアンの婚約者にすると約束をしたのだった。


 セルリアンは納得できなかった。

 怪我をさせたのは申し訳ないと思った。

 どんな償いも厭わない、だが、婚約だけは受け入れられなかった。


 アリシアを好きになれない。

 気位が高い令嬢は好みではない。

 お茶会にナターシャを呼んで、嫌がらせもあったと聞く。

 優しくてたおやかなナターシャ以外は妃とは認められなかった。


 婚約の件についてはまだセルリアンが幼いため、王太子教育をしたうえで己の立場を自覚させて、後にアリシアとは婚約を結ぶと決まったのだった。


 ヒューゼン公爵と縁を結ぶことは王家の願いで、セルリアンの大きな後ろ盾となる。

 ナターシャと婚姻したところで王家が得るものは無いのだ。

 この日を境にナターシャは登城を禁じられ、アリシアは婚約者候補となった。


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