現代に帰ってきたおじさん
「ぐあああああああ!!!」
大地を震わせるほどの断末魔が辺り一面に響き渡る。
「この私が、人間に殺されるなんてばか…な…」
粒子を纏いながら散りゆくは、この世界の創造神。
剣と魔法がはびこるこの世界、すべてのシステムを創り出したモノ。
散りゆく神の傍らで眺めている男こそが神を倒した男。
ユージ・アリスガワ。その人である。
「まあ、こんなものか…」
ユージは神を切り裂いた聖剣を鞘におさめ、崩れゆく神に近付き手を触れる。
『スキル・ドレイン』と呟くと同時に、神を構成していた物質は即座に消え去り、
ユージの体内に吸い込まれていく。
神の能力を吸収すると即座にスキルや能力が自身に反映される。
その中には現代に帰れる転生術もあるのが確認できた。
「ああ、これで俺もようやく現世に帰れる…」
俺、有栖川雄二がこの世界に転生されてから、はや20年ほどが過ぎていた。
当時高校生でこの世界に転生された俺は冒険者として活動し、
いつの間にかアラサーとなり、身も心も疲れ果てていた。
チートスキル『スキル・ドレイン』を授かったものの生まれ故郷に帰りたい一心で、
旅を続け、唯一故郷に帰れる可能性を持つ者、神の存在を知ることが出来た俺は、
ついぞ神を倒し、故郷に帰るすべを得たというわけだ。
この世界に未練がないのかと問われたらならば、多少の未練はある。
それは美しき女人たちだ。
見目麗しいハイエルフをこの世界で初めてみたときは夢、幻かと見間違えたほどだ。
こんなファンタジーの世界の女人たちに会えなくなってしまうというのは、
正直な話でいえば性欲盛りの俺にとっては苦渋の選択であると言える。
だが、でも、俺には生まれ故郷に帰りたいというしっかりとした理由がある。
大好きな幼馴染を残してきてしまったのだ。
俺の人生は真由美のためにあったといっても過言ではない。
そんなわけで俺は真由美に逢うためになんとしても故郷に戻る必要があった。
「ああああ、さらば金髪美少女たちよ…」
何度も悔やみながら悔やみながら、腰掛けていた岩から身体を起こす。
そして雑念を振り払うように目を閉じて、現世へ戻るための魔法陣を起動する。
辺りにはうっすらと青白い光が差す。
魔法陣を多重起動するとかなりの魔力が消費されるのを感じた。
やがて多重魔法陣は俺の身体をほんわりと優しく包み込む。
脳裏の中で生まれ故郷を強く念じると、フッと身体が軽くなり、
俺の意識は静かにブラックアウトした―――。
『ちゅんちゅんちゅん。』
「うー…ん…?」
日が昇ってくるタイミングで、鳥の目覚ましで目を覚ます。
起き上がり辺りを見回すと、そこには懐かしい光景が視界に入った。
見渡す限りの住宅街。それにコンビニエンスストア。
まさにここは俺の生まれ故郷。
「うおおおおおおおお!!!やったあああ!!!」
20年ぶりの光景に思わず声をあげてしまう。
ここがどこなのかはわからないが一つだけ言えること。
それはここが日本だということだ。
この際帰還場所がゴミ捨て場だったことについては目を瞑ろうと思う。
あとついでに裸だったことにも…。
「俺は帰って来たぞ!真由美!」
そして、この時のおじさんはまだ気付かない。
一人だけ年老いているという事実に―――。




