貧乳戦隊から微乳戦隊、そして美乳戦隊へ
漉王老師は冷蔵庫と壁の間でくつろぎながら、しかし心中は穏やかではなかった。
部屋の広いところでは二人の妻、ナーナミ・イートとげん・ラーが、トランプをして遊んでいる。
今は仲良く見える二人だが、喧嘩を始めると小学校の校庭を焦土と化してしまう。それをこの前の武闘会で改めて目の当たりにし、二人の力をなんとかしなければと思っていたのである。
ナーナミ・イートが機嫌よさそうに、笑う。
「ウフフ……。げんちゃん、この二枚のうち、どっちかがババよ」
げん・ラーは子供のようにはしゃぎながら、言った。
「わー……どっちかな? っていうか、ナナちゃん自身がババなんだけどね?」
「それは……どういう意味?」
「あー、もー……。なんでも人に聞かないのっ! わからないことがあればネットで調べるのが現代人だよっ? これだからババァは……」
「ちょっと待ったーーーッ!」
漉王老師は飛んだ。胡座をかいたまま空を飛び、二人の間に割って入ると、二人に最高の笑顔を作って見せた。
「仲良くしよう! な? 仲良くしような? な?」
「あなたがそう仰るなら……」
ナーナミ・イートは背中から出しかけていた炎を引っ込めた。
「ろくおー、愛しとるぞ٩(ˊᗜˋ*)و」
げん・ラーは元々喧嘩をする気もなかったようだった。
漉王老師はホッとしながらも、早めにインドに帰ることを考えはじめていた。
四人の妻のうち、二人の妻は国に残して来ていた。ソラーハ・ラウミとサッキー・ソーラ──あの二人まで日本に押しかけて来たら、日本は沈没させられてしまう。
部屋をノックする音がした。
カチャ……
ノックした人物は、漉王老師の返事も聞かずに部屋に入って来た。
『まっ……、まさかっ……! 二人が日本に押しかけて来たのか……っ!?』
しかし入って来たのは思い詰めたような表情をした、貧乳イエローこと平野ぺたであった。
「なんじゃ、ぺったん」
漉王老師は心底ホッとして、つい遠慮のなさすぎることを言ってしまった。
「そのぺったんこのおっぱい、わしに大きくしてもらいに来たんか?」
「じつは……」
ぺたは、うなずいた。
「Dカップぐらいでいいんで……。お願いします」
「いかんじゃろ」
漉王老師はかぶりを振った。
「熱原くんと一風部長からそれは絶対にしてやるなと言われておる。それをしたら、おまえさんは貧乳戦隊のメンバーとしての資格を失うぞいっ」
「あたしたち、貧乳戦隊やめるかもしれないんです」
「なんと?」
「貧乳ブルーが戦隊を辞めました。恋愛禁止の貧乳戦隊が嫌で、巨乳戦隊に移籍したんです」
「Bカップで巨乳戦隊になれるんかい?」
「知らないけど……あたしっ! あたしも貧乳戦隊やめて、キョニュレンジャーになりたいんですっ! 貧乳イエロー改め巨乳イエローに!」
「巨乳イエローは既におるではないか。堀スタインくんが」
「だからっ……! あたしの胸をDカップにして、堀スタイン先輩の胸をぺったんこにしてあげてください!」
「確かにわしは女子の胸を大きくできる」
そう言って、漉王老師は二人の妻の胸を見た。
「この二人の胸を見ての通りの巨乳にしたのも、すべてわしの力じゃ」
そしてまた、かぶりを振った。
「しかし大きくすることはできても、小さくすることはできんのじゃ!」
「そっ……、そんなっ……!」
「とりあえずわし、熱原くんから叱られるのは嫌じゃ。ここにも住ませてもらえんようになる」
そう言ってから、漉王老師は優しく微笑んだ。
「移籍することがはっきり決まってからまたおいで。その時にはわしも用済みじゃ。インドへ帰ろうと思ってもおったところじゃ」
平野ぺたは、いつもすけべな笑いを浮かべている漉王老師が優しく笑ったのを見て、思わず『キモッ』と思ってしまった。
その頃、貧乳レッドこと千々梨優美は、高いビルを見上げていた。
ビルの名前は『獏羽生ビル』。巨乳レッドこと獏羽生玲子が新たに立ち上げたスーパー戦隊事務所はその17階にあった。
「ユレンちゃんはうちをやめて、今、ここにいるんだな……」
そう呟くと、エントランスから入り、エレベーターは使わずに、階段を上がりはじめた。
「とりあえず玲子さんと話をしなきゃ」




