微乳ブルー誕生
「ところでどうして『ふいんき』って変換できないんだろう?」
そう言って首を傾げ続けている平野ぺたは無視して、虚無子はユレンに駆け寄った。
「ユレン! 大丈夫?」
「こむちゃん……」
ユレンは顔を伏せ、泣いていた。
「ごめんなさい。わたし……、こむちゃんに嫉妬してた」
「ウチこそゴメンな」
虚無子がユレンを抱きしめる。
「あんなショボい怪人に乗っ取られてまうほど寂しくさせてたんやな」
「もう……わたし、嫉妬とかしないから。構わず彼氏さんと毎日イチャついていいからね」
虚無子はユレンの泣き顔をDカップの胸に隠してあげながら、その髪を撫でた。
「無理せんでええねん。我慢せんでええ」
「でも……っ! 我慢しないとまた……こむちゃんのこと、憎いとか思ってしまうっ!」
「我慢はアカン」
虚無子はユレンの顔を、Dカップの胸の間に深く埋め込んた。
「我慢せんでもええ方法を考えるんや」
「じゃ、あたし帰るからー」
平野ぺたはそう言うと、詩を口ずさみながら歩き出した。
『アオハルの空は暗い』 作:平野G杯
東京の空にアオハルはないとゆれ子はいった
空はあるけど青くはないのだと
わたしはレモンをがりりと噛り
爽やかさのない苦味に舌をだした
アオハルの空は暗い
アオハルの空は暗いのだ
まだそれを知らないゆれ子に
ほんとうの空の色を教えてやりたい
「あのひと……。ほんまに詩の新人賞とったんかいな」
虚無子が呆れ顔で見送った。
「高○光○郎のモロパクリちゃうん、アレ」
黙ってその巨乳に顔を埋めつづけていたユレンが、決意を込めた顔をあげた。
「こむちゃん……! この間の話、わたし、やりたいっ!」
「この間の話……? 何だっけ?」
「巨乳戦隊と貧乳戦隊を合体させて、美少女戦隊にするって話!」
「おお! 来てくれるん?」
「契約の問題とかあるし、みんなでってわけには行かないだろうけど……。わたし一人ぐらいなら移籍できると思う!」
「おいでよ。きっととても楽しいし、ウチらは恋愛禁止ちがうから思いっきり恋もできるはずや」
「わたし……。ずっとおかしいって思ってたもん。同じ正義を志す戦隊同士がなんで張り合わないといけないのかって」
「ダブルデートや! ユレンも彼氏作って遊園地でダブルデートするでえっ!」
「ちょっとこむちゃん……。わたしの話、聞いてる?」
数日後、微風ユレンはとっておきの薄青色のワンピース姿で、小さな芸能事務所にいた。
「初めまして! 微風ユレンです! 以前は貧乳戦隊おっぱいナインジャーZの貧乳ブルーやってました!」
大きな声で喋ったつもりだったが、自分で思うよりもその声はちゃんとみんなの耳に届いていた。
前に並ぶ巨乳戦士5人がにっこりと笑い、挨拶を返した。
「よろしくなっ! オレは巨乳イエローこと堀スタインだ。知ってると思うけどなっ!」
「いらっしゃい、ユレンちゃん。あたしは巨乳グリーンこと牛野陽奈よ。知ってると思うけど」
「ちーっす。巨乳ピンクこと出階堂小心ッスー。お見知り置きを」
「ほんまに来てくれたんやな、ユレン」
巨乳ブルーこと青野ヶ原虚無子が嬉しそうに微笑む。
「一緒にアオハルしような」
「ありがとう。協力してくれて嬉しいわ、微風さん」
黒い革張りの椅子から立ち上がり、ウェーブさせた長い髪を揺らして、巨乳レッドこと貘羽生玲子が握手を求める。
「わたくしたちは社会悪の秘密組織ギゼンを敵として戦う仲間どうし。今まで対抗し合ってたのがおかしかったのよ」
「はい! よろしくお願いします! これからはわたし、皆さんと一緒に戦います! 貧乳ブルー改め『微乳ブルー』として!」
そう言うと、ユレンが変身した。
今までのセクシーさをとことんまで抑えた貧乳戦士のコスチュームではなく、スレンダーなボディーラインと控えめな胸を強調した、それは微乳マニアが涎を垂らして喜びそうな、いわばロリエロいコスチュームであった。
虚無子が前に出て、その細い体を抱きしめた。
「遊園地でダブルデートしような!」
「ちがうーって! こむちゃん!」




