ゴールデンウィークがやってきた
5月の連休が始まった。
巨乳ブルーこと青野ヶ原虚無子は毎日を楽しんでいた。
昨日は人気ロックバンドのライブ、今日は遊園地。付き合いはじめたばかりの彼氏と毎日一緒だった。
「なー、目尻くん。次、アレ乗ってみぃひん?」
「目尻ちゃうわ、江尻や! なんべん間違ったら気が済むねん!」
「あー、ホンマ、ええ尻や」
「衆人の前で男のケツ撫で回すなや!」
関西人同士、二人は意気投合しているようだ。
貧乳ブルーこと微風ユレンはそんな二人を隠れてつけ回していた。
関西ウォーカーの大きな表紙で姿を隠し、遠目に二人の行方を確認している。
『わたし……。何やってるんだろう』
昨日もライブ会場で三列後ろの席から二人の様子ばかり見ていた。
『自分がこんなに嫉妬深い子だったなんて……』
自分を客観的に見たら、とても落ち込んでしまった。
『帰ろうか……。ううん、気になる。ここにいる』
二人は軽食コーナーでソフトクリームを買い、楽しそうに食べている。虚無子がバニラ、彼氏はチョコだった。
『エタメタノールさんのweb小説でも読んで気分をほっこりさせよう』
ユレンがそう思い、スマートフォンを開こうとした時だった──
「もー、江尻くん。口の横にチョコついてんで」
そう言うなり、虚無子が彼氏の口元についたチョコを指で掬い取り、舐めたのだった。
ユレンには刺激が強すぎた。
『あれって……! 間接キスってやつ!?』
「おいおい。他人のこと言えるかぁ? おまえも口元にバニラついてんで?」
そう言いながら、彼氏が虚無子の唇を、舐めた。
『う……、うわあああっ!?』
ユレンはエタメタノールさんのweb小説どころではなくなってしまった。
『あ……、あれあれあれは……! ディープキスってやつ!?』
帰り道、ユレンはヘトヘトになっていた。
両親には『戦隊のトレーニング』と嘘をつき、戦隊には『親と毎日小旅行』などと嘘をついて外出していた。
なぜ、貴重な青春時代の5月連休を、こんなことに費やしているのか、自分でもわけがわからなかった。
『わたしも……恋がしたいなあ……』
そう思うのと同時に、別のことも思っていた。
『こむこちゃんが一緒にいてくれないから、つまんない……』
そこへ後ろから声をかけてきた女がいた。
「ねェ、あなた。あたしと一緒にリア充滅ぼさない?」
『えっ?』
夕暮れはじめた小径には、自分の他には誰もいないと思っていた。
燃える嫉妬のような太陽を背に、その女がそこに立っていた。
「恨めしいでしょう? 憎らしいでしょう?」
黒い影のような女は、歯を激しく軋ませながら、強い声で言った。
「あたしと一緒になれば、妬ましいリア充に目に物見せてやることが出来るわ」
「だ……誰?」とユレンは言い、相手には聞こえていないようだったが、その女は名乗りながらユレンの影に自分の影を重ねてきた。
「あたしの名前は影女。あなたの影になってあげる」
「う……、動けない!」
ユレンの表情が恐怖にかたまる。
「あなたの嫉妬を増幅させて、あなたをダークサイドにご招待するわ」
影女はそう言い、じわじわと近づいてきた。
やがてそれはユレンの影とひとつになった。




