出会いはカフェで
「結局ユレンのとこは独立でけへんかったんどすなぁ」
「うん……。玲子さんと違って、うちのリーダーはお金持ちじゃないから」
巨乳ブルーこと青野ヶ原虚無子と貧乳ブルーこと微風ユレンは、かわいいものがいっぱいなカフェの席で向かい合い、ダルゴナコーヒーを飲んでいた。
「じゃあ、貧乳はんとこは、相変わらずウチらを敵だと思ってはるんやね?」
「少なくとも上の人たちはそうみたい。でも、わたし達メンバーは思ってないよ、もう」
虚無子は目を閉じてコーヒーに口をつけると、ゆっくりと皿に置いた。
メガネが曇り、口の周りは泡だらけだった。
その顔を見てユレンは思わずぷっと笑ってしまった。
「どうしたん?」
片目を開けて、虚無子が不思議がる。
「こむちゃん、泡、ついてるよ。盛大に」
ユレンの笑いが止まらなくなる。
「おひげみたい?」
「みたい、みたい。クスクスクス」
その時、突然、横から背の高い男が、ぬっとユレンの前に顔を現した。
「キミ、かわいいね」
「……!」
「高校生だよね? どこの高校? 俺、池暮高校三年の江尻って言うんだけど」
とても小さな声でユレンが「あのっ、そのっ」と言った。
「ん? 口は動いてるのに声が出てないよ? あっ。何かの障害? いいよ、俺、そういうの気にしないから。大らかな、度量が広い男だから」
その背中から、コーヒーを口に当てながら、虚無子がツッコむ。
「なんですのん、あんさん。その娘声がちっさいだけや。失礼なナンパの仕方やなあ」
男が虚無子を振り向く。
いかにもなチャラ男だった。
そのチャラい雰囲気に全身を包む男を見て、虚無子は一瞬で恋に落ちた。
「ごめん、キミよりこっちの娘のほうが好みなんだ。キミは黙っててくれないかな」
コーヒーを口に当てたままメガネの奥の目がハートになっている虚無子に男は微笑んだ。
「知らんやった……」
虚無子はチャラ男に答えた。
「ウチ、こういうギラギラした感じのひと、タイプやったんやわ」
「ありがとう。でも、言った通り、俺、こっちの娘のほうが好みだから」
「へんな名前も好みやわ。すごい名前どすな、目尻くんて」
「目尻ちゃうわ! 江尻や」
「あ、すまんすまん。目尻がシブいから目尻くんかと思ったわ。ええ尻しとるから江尻くんなんやな?」
「なんやおまえ関西人かいな! どこのもんや!」
「京都どす〜」
「嘘つけ! それ京都弁ちゃうやろ! ほんまはどこや!」
「ホンマは大阪の堺どす〜」
「ほな、どすどす言うなや!」
「どすどすなんて足音立てるかいなゴジラやあるまいし」
いきなり始まった関西弁どうしの掛け合い漫才を見ながら、ユレンは呟いた。
「な……、なんかこの二人……。お似合いだ!」
「おもろいな……、おまえ」
江尻くんも少しそう思ったようだ。
「顔、見してみ? よう見たら好みやったとかなるかもしれん」
虚無子がゆっくりと、口に当てていたマグカップを、離した。
口の周りにコーヒー色のひげが、びっしりと生えていた。




