デッド・ルーム
「待ちなさいっ!」
カップルに襲いかかろうと怪人がした時、止める声がダンジョンに響いた。
「きいいっ! ……誰っ!?」
暗闇の中で怪人ジェラス・レディーが振り返る。
「罪なき人を傷つける悪い怪人は宇宙の果てまで弾き飛ばします!」
キョニューレッドこと獏羽生玲子が見得を切る。
「我ら、巨乳戦隊、キョニュレンジャー!」
「胸はないけど正義の心は巨大……!」
ヒンニューレッドこと千々梨優美が続けて見得を切った。
「貧乳戦隊っ……! おっぱい、ナインジャ〜〜〜! ぜぇーっと!」
「うわあああっ! 嫉妬! 嫉妬! Shitぉぉぉ〜〜〜っ!」
怪人が発狂する。
「何よアンタら! リーダーぶっちゃって! カッコつけちゃって! アンタらみたいの、あたしら許さないッ!!!」
「……あ?」
玲子の声が、何もない空間に響いた。
「……あれ?」
優美の声が同じく……いや、響かなかった。
二人は真っ白な場所にいた。
その声は何かに吸い込まれるように響かない。
「ホーッホッホッホ……」
怪人ジェラス・レディーの声も、まるで無響室の中にいるように、死人のように乾ききっている。
「ようこそ、あたしの『デッド・ルーム』へ」
「みんなは?」
「みんなはどこ?」
「ホホホ……。ここはあたしのステージ。あたしの嫉妬で作られた異空間よ。他の戦士達がいる時空とは切り離され、あたしとあなた達3人しかいないわ」
暗いところから真っ白な異空間に転移させられ、二人のレッドとも目が眩んでいた。それが徐々に慣れはじめると、怪人の姿がはっきりと、見えてきた。
「ああっ……!?」
優美が声を上げた。
「あなた……! キョニューグリーンさん!?」
「違うわ、優美さん」
玲子が首を振る。
「よく似ていますけど、陽奈さんはあんなに歪んだ顔はしていない」
「きいいいっ! 誰の顔が歪んでるですって!?」
怪人ジェラス・レディーは優美の言う通り、キョニューグリーンこと牛野陽奈と同じ顔をしていた。ピッチピチのボンデージスーツに身を包んでいるのと、顔が嫉妬に歪んでいることを除いては、だが。
「二人だけでやるしかないわね」
玲子が言った。
「大丈夫? 優美さん」
「私がこんなことで怯むと思ってますか?」
優美は強い正義の光を浮かべる瞳を燃え上がらせた。
「サッと片付けて、みんなで帰りに遊園地で遊ぼう!」
「きいい……。憎々し、憎々し!」
怪人ジェラス・レディーが激しく歯ぎしりの音を、残響音のまったくない異空間に、ぎるりると鳴らす。
「主人公ヅラしちゃってさ! 羨ましいったらありゃしないわよ、アンタ達! 殺してあげる!」




