篠宮マサシ登場
ヒンニューレッドこと千々梨優美は19歳Aカップ。
いつでも正義に燃える目をした、スレンダービューティーである。
彼女がテレビ局へ行くため、姉と並んで歩いていると、電信柱の陰から声を掛けてくる男がいた。
「おいっ、優美ちゃん」
振り返り、男の顔を認めた優美の口が「あっ」と動く。
「なあ、優美ちゃん。こっち来いって」
男は帽子とサングラスとマスクで顔を隠していたが、優美には一目でそれが誰だかわかり、わかった瞬間に「げっ」と口を動かして逃げはじめた。
「おいおい」
男は猿のように電信柱から次の電信柱まで一瞬で飛び移ると、しつこく声を掛けてくる。
「話があるんだって。ヒンニューレッドちゃん」
「一生もう話しかけないでって言ったよね?」
正義に燃える目でキッ!と睨みつけると、優美はそれだけ言い、先へ歩いて行く。
追うのを諦めたかのように動きを止めた男に、姉のマリアが声をかけた。
「まあまあ、そんな変装をされて……。篠宮マサシさんですわよね?」
「お久しぶりです、マリアさん」
マサシは帽子だけ取って挨拶した。
「残念ながらあなた、優美ちゃんに嫌われてしまっていますわ。いえ、毛嫌いされてしまっています」
「そのようです」
「そんなにひどいことをしたんですの?」
「したようです」
「じゃ、自業自得なのではなくって? ウフフ」
「でも、僕は本気だったんです。本気で優美ちゃんのことを……」
「とりあえず……どうして変装なさってるのかしら?」
篠宮マサシがサングラスを取って、その涼しげなイケメンの目を見せた。
「僕は2年前、沈没した豪華客船の上で死んだことになってますからね」
「爆発に巻き込まれたんでしたわよね?」
「ええ。でも、僕の正体はスーパーヒーローだから、死ななかった」
「素敵」
「でも、あの爆発でふつうの人間が生きているのはおかしい。だから僕は正体がバレないように、こうして隠遁生活を送っているんです」
「でも、それじゃ、人助けが出来ないでしょう? スーパーヒーローなのに……」
「だから優美ちゃんにお願いをしに来たのです」
「どういうことかしら?」
篠宮マサシはマスクも外すと、マリアの前に手をついて、言った。
「お願いです! 僕を貧乳戦隊のメンバーに入れてください!」
マリアは困ったような表情で、唇に人差し指を当てた。
「あの……。あなた、男性ですわよね? 貧乳戦隊には女性しか……」
「幸い僕はこの通り細身の体格です! スーツを着れば、やたら腰がくびれてない以外は、女に見えるはずです!」
「でも、お声が……」
「ニャー!」
マサシは甲高い声を作って出した。
「あたし、女の子ナノー!」
「お上手」
マリアが微笑みながら拍手をする。
「でも、リーダーの優美ちゃんが許さないと入れないですわ」
「だから僕は優美ちゃんにお願いに来たんです」
マサシは変装を戻すと、真面目な声で、言った。
「もう優美ちゃんに変態行為はしないと誓います! 恋人同士に戻れなくてもいい! ただ、彼女を近くで見ていられれば、それだけで!」




