ヒンニューレッド千々梨優美の悲しみ
ヒンニューレッドこと千々梨優美の家は佃煮屋さんをやっている。
「今日も世界の平和を守ってくれよ」
ちちなし佃煮店の前で、今日も父親が腕を組んで二人の娘を見送る。戦隊の仕事へ赴く優美は鬱陶しそうに、姉のマリアは微笑んで手を振った。
父の名前は千々梨籐膳50歳。代々続く佃煮屋の伝統を守る熱血オヤジである。
「世界の平和を守り、そして我らがちちなし佃煮店の宣伝塔となってくれ」
父の佃煮店は最近近所に出来た大型スーパーマーケットに押され、潰れかけていた。
道を歩きながら、姉のマリアが笑顔で言った。
「お父さんのためにも頑張りましょうね、優美ちゃん」
「お父さんのことはどうでもいいでしょ」
心底どうでもよさそうな表情で優美が答える。
「どうせお店が儲かってもすぐパチンコ代に溶かしちゃうんだから」
「フフ……。私はお父さんのこと、人間味があって好きよ? あんなひとだからお母さんも好きになったのよ、きっと」
「お母さんのことも大事に思ってくれてないじゃん!」
優美は母の顔を思い浮かべながら、声を尖らせた。
「すぐに女の人を好きになって、お尻追いかけ回してさ」
「お父さん、お母さんのことは大事に思ってるわよ。今年もお墓参り行ったでしょ?」
「それは『当たり前のこと』じゃん」
「ウフフ……。優美の男嫌いは治らないわね。父親のことまで嫌いだなんて」
「べつに……嫌いってわけじゃ、ないけどさ……」
優美の母親は、彼女が12歳の時、通り魔に刺されて死んだ。
母と姉妹の3人で街を歩いていた時だった。前から突然襲ってきた男の凶刃を、娘達をかばって受け止めたのだ。
父はその時パチンコに行っていて、いなかった。
病院に駆けつけた時、父は泣いた。
「オレが側にいてやれば」と言いながら、母の遺体に顔を埋めて泣いていた。
そんなことがあったにも関わらず、父はいまだにパチンコをやめずに続けている。
それから彼女は胸に誓うようになった。
『私は誰かの大切な人を守ってあげられるよう、強くなるんだ』
善良な人々を守り、悪を滅ぼすためなら自分の大切なものすら捧げようと思った。
将来は警察官か何か、正義を守る仕事をしたいと考えるようになり、強くなるため毎日神社にある108段の石段を10往復し、空手と柔道を習った。
神様は彼女を見ていた。
17歳の時、彼女は一人の青年と出会う。
青年は超人の力を持っていた。
そして相手の大切なものを貰う代わりに超人の力を授ける能力も有していた。
17歳の頃、優美のおっぱいはCカップであった。
周囲から「スタイルいいね」と褒めそやされ、特にその美乳は自慢であった。
自慢のおっぱいと引き換えに、彼女は超人の力を手に入れたのだ。
優美にその力を授けた青年は、超人であることを隠すため、普段は海上保安官をやっていた。
青年の名前は、篠宮マサシといった。
そして彼こそが、優美の男嫌いを決定的なものとしてくれた人物である。




