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巨乳戦隊キョニュレンジャー VS 貧乳戦隊おっぱいナインジャーZ  作者: しいな ここみ
第八章 正義の炎を燃やせ! 赤く! 赤く!
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キョニューレッド獏羽生玲子の哀しみ

 玲子は冷めた紅茶を前に置いて、思い出す。



 篠宮マサシ──


 忘れられないその名前、その姿。




 彼はその時29歳。玲子は17歳だった。


 篠宮マサシは海上保安官だった。




 玲子の追憶を海水が満たしていく。





「きゃあっ!」

 玲子は白いドレスを濡らし、悲鳴を上げた。


 沈没しかかる客船の中で、その場に一人取り残されていた。

 海水が上から降ってくる。

 船上パーティーに集まっていた皆とはぐれ、一人で逃げているうちに、不安を掻き立てられるほどに無機質な赤錆の空間に囲まれていた。


 その頃の玲子はまだEカップだった。

 じゅうぶんに巨乳であるとはいえ、巨乳戦士の力にはまだ目覚めていない、ただのか弱い女の子だった。


 橋のようなものの上を歩いている時、降りかかる水圧でそれが崩れた。

『もう……ダメだわ』

 落ちてくる彼女を待ち構えて猛り狂う黒い渦を見ながら、覚悟を決めた時、玲子の手を力強く受け止める手があった。


「もう大丈夫だ」


 優しく温かいその声を聞いた。

 日に焼けたその人の顔を、玲子は見た。

 その途端、不思議なほどに不安はすべて吹き飛び、逞しいその微笑みに、まったき安心感のみを覚えたのであった。


 レスキュー隊員の防護服に身を包んだ篠宮マサシその人に、一目で恋をしたのだった。



「僕についておいで」


 優しい声でそう言われると、すべてを任せて人生を捧げたくなった。

 細身な彼なのに、限りなく逞しく見えた。

 ヒーローだった。彼こそが平和と安全の象徴だった。

 彼の「足元崩れるかもしれないから気をつけて」が「愛してる」に聞こえた。

 吊り橋効果なんて信じなかった。


 彼に抱かれて、守られて、水圧に破壊された険しい船の中を進んだ。

 垂直の梯子を登る時、彼が下から支えてくれた。白いドレスの中を見られるのが恥ずかしかったが、彼に見られるのはけっして嫌ではなかった。


 あまりに身軽な、まるでスパイダーマンのような彼の動きに感嘆し、桃色の声で賞賛した。

「まるでスーパーヒーローですわね」

 彼はその言葉に、さらりと返した。

「僕はただの海を飛び回る猿ですよ」


 誠実な男性だと思った。

 玲子は胸元を強調するドレスを着ており、動くたびに胸が飛び出してしまいそうになるのに、それには目もくれることなく、脱出経路だけをまっすぐ見ていた。

 正直のところはちょっとぐらい見て欲しいのにと思っていた。


 彼にずっと守られたい。

 ここを生きて出られたら、ぜひ彼を獏羽生ばくにゅう鉄道グループの社長の義理の息子に迎えたい。

 いや、生きて出られないわけがない。

 彼が、自分を、守ってくれる。


 そう思っていた。



「ここを抜ければもう、すぐです」

 そう言って彼が重たいハッチを開けると、シルクのような夜空に三日月が浮かんでいた。


 嵐はやんでいた。

 甲板に上がり、彼が慣れた手つきで救命ベストを玲子に着せてくれ、ボートを用意する。


「さあ、乗って」


 彼にエスコートされるままボートに乗り込んだ。

 振り向くと、彼が客船に戻って行こうとしているのを見た。


「ご一緒に乗って行ってはくださいませんの?」

「まだ救助を待っている人がいないかどうか、見てきます。幸い、海は凪いでいますので、すみませんがお一人でボートを漕いでくれますか。陸はあそこに見える灯台をめざして行けば辿り着けます。それでは!」

「あの……、お名前を!」

「篠宮マサシであります。それでは、お気をつけて」


 そう言って敬礼し、彼が戻って行ってしばらくの後、彼を待ち構えていたように、船の上で爆発が起こった。


「きゃあっ!?」

 それは玲子が思わず叫び声を上げるほどの激しい爆発だった。

「篠宮さま!」


 後にそれが漏れていたガスに引火したための爆発だったと知った。

 燃料に引火したのではなかったため、ボートに乗っている玲子に被害は及ばなかった。

 しかし玲子はボートを漕ぎ出さず、ひたすら待った。

 彼が甲板から顔を覗かせ、船体の梯子を伝って降りてきて、またあの笑顔を見せてくれるのを、ひたすら待った。

 自分から様子を見に行くことは出来なかった。

 そんな勇気も、体力も、何の能力ももたない玲子はただ、待つしかなかった。


 やがて残酷な朝が来た。


 ようやく諦めて、玲子はボートを漕ぎ出した。

 朝日が涙に濡れて、灯台の位置を見失いそうになった。


 なんとか陸に辿り着いた玲子は、後にニュースで見た。

 殉職者の名前がただ一人、テレビ画面に映し出されていた。

 篠宮マサシ、と。







 紅茶を口に運び、キョニューレッドとなった現在の獏羽生ばくにゅう玲子れいこは、思うのだった。


『わたくしは……男の手を借りずに生きるため、強くなった』

 そしてティーカップを皿に戻すと、机に肘をつき、泣いた。

『あの時に……この力が自分にあれば……!』



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― 新着の感想 ―
勇敢な海猿が犠牲になったのか…………。 敬礼!
[一言] 私も玲子様を(^_-)-☆お守りしたいです(^_-)-☆
[一言] 出演させていただきありがとうございますm(_ _)m 玲子の過去が悲しくて泣きそーです。
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