キハ仮面登場
キョニューレッドこと獏羽生玲子はお嬢様である。
家も豪邸だ。執事も雇っている。
「お嬢様」
玲子が食堂で、紅茶を前に物思いに耽っていると、執事の南野島木ノ葉が手にナプキンを提げ、恭しく声を掛けてきた。
「お紅茶が冷めてしまわれましたね。代わりをお持ちいたしましょうか」
木ノ葉は高身長の美少女執事である。
しっかり者だが、玲子よりも年下だ。
短く刈り揃えた黒髪ときりりとした目つきが凛々しい。
18歳を自称しているが、ほんとうはもっともっと若くて義務教育の年齢なのではないかという噂があった。
「ああ……木ノ葉」
玲子は夢から覚めたような顔をして、微笑む。
「構わないわ。……あの方のことを思い出していたのよ」
「篠宮マサシ様のことでございますね」
「ええ」
それだけのやりとりを交わすと、二人はすべてわかり合っているというように、穏やかに沈黙した。
「それでは、ごゆっくり」
「木ノ葉」
一礼して下がりかけた美少女執事を玲子が呼び止める。
振り返り、言葉を待つ彼女に、玲子は聞いた。
「あなた……『キハ仮面』という名前の人物に心当たりはなくて?」
木ノ葉は黙った。
玲子が続ける。
「この前、巨乳戦隊で怪人と戦っていた時、そんな名前を名乗る人物が現れたのよ。電車の顔で素顔を隠した、細身の麗しい男性でしたわ。わたくし達、その人物にピンチのところを救われましたの」
「その人物の服装は?」
なぜか木ノ葉が嬉しそうに聞く。
「車掌さんのコスプレをしていましたわ」
「そうですか」
木ノ葉はなぜか得意そうに微笑んだ。
「それはイカした人物ですね」
「篠宮マサシ様ではないかと思うの」
木ノ葉がショックを受けたような表情を浮かべる。そして、苦笑しながら、言った。
「まさか……。申し上げにくいのですが、篠宮様は……」
「ええ。この世にはいらっしゃらないはずよ」
そう口にしながら、玲子の目には希望の火が灯っていた。
「でも……。もしかしたら……、生きてらっしゃって……、陰からわたくしを助けてくれているのかも」
「そうだと……よろしいですね」
木ノ葉は何やら申し訳なさそうに目をそらすと、頭を下げた。
「……それでは、ごゆっくり」
二人のやりとりを傍らで聞いていたメイドの小熊ナコが廊下に走り出てきて、木ノ葉を呼び止めた。
「ねえ、執事さん。さっきの話の、篠宮マサシって誰?」
木ノ葉は振り向くと、にっこり微笑んだ。
「お嬢様の思い出の殿方です。話すと長くなりすぎますし、お嬢様のプライベートに関わることなので、申しません」
「あん、意地悪!」
ナコは唇を尖らせると、指を差した。
「あと、あたし知ってますよ。キハ仮面はあなたでしょ?」
「なんのことです?」
にっこり微笑みを木ノ葉がさらににっこりさせる。
「あなたの部屋で、あたし見ましたもん。車掌の制服と、電車の顔の仮面!」
木ノ葉は素早くナコに近寄ると、壁に押しつけ、その唇を、唇で塞いだ。
熱く長い口づけを解くと、ナコはふにゃふにゃにとろけていた。木ノ葉は力強い目を微笑ませて、その耳元に囁いた。
「口を封じましたよ? いいですね、誰にも言わないように。私はお嬢様をお守りしたいだけなのです」
キハ様、出演依頼に許可をどうもありがとうございましたm(_ _)m
小熊ナコ様はなろう作家の大熊なこ様とは関係がありませんm(_ _)m




