そして二人ともイエローはバカだった
「うぉい……!?」
ヒンニューレッドこと千々梨優美は、イエローの部屋のドアを開けるなり、固まった。
「あっ。優美」
ヒンニューイエローこと平野ぺたは幸せそうに微笑みながら片手を上げ、ヒラヒラとそれを振る。
「赤ちゃんの靴下を編んでたんだよ。どう? 可愛いだろ?」
レッドはまじまじとイエローを見た。
黄色いマタニティーウェアに身を包み、そのお腹がバスケットボールのように膨らんでいた。
それを大事そうに抱えるようにして毛糸の靴下を編んでいる。
「け、今朝までそんなに膨らんでなかったじゃん!」
レッドが掴みかかるようにイエローに近づく。
「ってか相手は誰!?」
「フフ……」
頬を赤く染めて、イエローは答えた。
「キョニューイエローさん」
「女じゃん!」
レッドが的確に突っ込む。
「あのひと、確かに男っぽいけど、でも女じゃん!」
レッドのツッコミに、イエローがお腹に入れていたバスケットボールが落ちた。
ダンダンダンと音を立ててドアのほうへ転がっていった。
それを見送りながら、レッドが聞く。
「……なんの遊び?」
「なんでもないよ」
イエローは立ち上がると、わざとらしく伸びをした。
「さあっ! イメトレでもしよっかな」
想像妊娠で巨乳になろうとしてたとは恥ずかしくて言えなかった。
しかしキョニューイエローさんのことは信じていた。
『あのひとが……なんとかしてくれる』
===
その頃、キョニューイエローこと堀スタインは、悪の秘密組織『ギゼン』の本部へ乗り込んでいた!
「こんにちはー」
「おっ? また来たのか、君」
そう言いながら、暗い洞窟のような部屋で怪しげな実験をしていた老人が、とろろ昆布のような長髪を揺らして振り向いた。
シワだらけの顔に黒く縁どられたギョロついた目が、イエローを見て微笑む。
彼の名は松戸バーカー博士、71歳。悪の秘密組織『ギゼン』の幹部であり、悪の科学者である。
イエローはたまにここを訪れていた。
なんか面白そうな洞穴があるなと思って入ってみたら、マッドサイエンティストの松戸博士と偶然出会い、仲良くなったので、それからたまに遊びに来ているのだ。
ここがまさか敵の本拠地だということにはちっとも気づいていなかった。
変身していないので松戸博士も彼女がまさかキョニュレンジャーのイエローだとは思ってもいなかった。
博士の淹れてくれたジャスミン茶を飲みながら、イエローは笑顔で切り出した。
「今日は博士に頼みがあって来たんだ」
「なんでも言ってみなさい」
「オレのこの邪魔な胸を切り取ってくれねーかな」
「なんだって?」
「巨乳になりたがってるヤツがいるんだよ。そいつにプレゼントしたい」
出来ないことはなかった。
松戸博士の改造技術をもってすれば、切除したおっぱいをほっぺたに移植することも容易かった。
しかし、博士は、言った。
「……できないよ」
「博士でも出来ないことがあるのか?」
「天才だからってなんでも出来るわけではないのだよ」
「そっかー……。残念」
「そ、そんなことより楽しい話をしよう。いつものように、君がノルウェーの海を泳いで日本まで渡って来た話を聞かせてくれ」
松戸博士にも出来ないことはあった。
自分の大切なものを、その手で切り刻むことは出来なかった。
彼は、明るくて優しくて美人で巨乳な堀スタインの、ファンだったのだ。
(Happy End)




