キョニューイエローも根性
キョニューイエローこと堀スタインは25歳、ノルウェーと日本のハーフである。しかし彼女の刈り揃えられた短髪が金色なのは天然ではない。染めている。地毛は日本人らしく真っ黒である。
スタインは通常男性の名前だが、見た目がとても男らしいので誰も気にしない。それどころか似合っているとさえいえた。
それでいて、Hカップの胸が立派すぎるので、誰も男と見間違えることはなかった。
彼女には自分が男っぽいことについて、悩みは何もなかった。
むしろ胸が女らしすぎることが悩みであった。
この邪魔な巨乳さえなければ、もっと強くなれそうなのに、と思っていた。
堀スタインは巨乳戦隊きっての肉体派である。
元女子プロレスラーであり空手家でもあった彼女は、拳とキックだけで怪人を倒す。
能力は特には使わない。変身しなくても怪人を倒すことの出来る、両戦隊で唯一のパワーファイターであった。
日曜日、いつものように、筋肉をつけて胸を減らすため、両手に30kgのダンベルを持って運動公園を散歩をしていると、高い鉄棒で懸垂を頑張っているかわいい女子を見つけた。
堀スタインはにこやかに近づいて行くと、声をかける。
「やあっ! 頑張ってるねぇ」
「あっ、センパイ!」
男の子みたいなショートカットに黄色いTシャツ、グレーのハーフパンツを穿いた女の子は、鉄棒から降りると気持ちのいい笑顔で頭を下げる。
ライバル戦隊おっぱいナインジャーZのヒンニューイエローこと平野ぺただ。
堀スタインは彼女のことが大好きだった。
正反対の悩みを持ち、しかし志を同じくする彼女は、同士といえた。
とてもささやかな、カッコいい洗濯板のような胸を持つ彼女は、堀スタインの憧れでもあった。
「どうしたら君みたいなカッコいい胸になれるんだ?」
「なりたくてなったんじゃありません。これは遺伝なんです。センパイこそどうやったらそんな迫力のある胸になれたんですか?」
「母がノルウェー人でデカパイなだけだよ」
「とりあえず私、根性で巨乳になってみせますから!」
「ああ、頑張れよ。オレも根性でこの胸をすべて筋肉にしてみせる!」
平野ぺたがぽりつりと言った。
「それ、切り取って私の胸につけられたらいいのに……」
「なんだって!?」
堀スタインが真剣な顔になったので、平野ぺたは慌てて笑い飛ばそうとした。
「じょっ……、冗談ですよ、冗談! そんなこと出来たらいいのになあ〜ってだけの、たられば話……」
「いや! 現代の科学力なら出来るかもしれないぞ!?」
スタインはノリノリだ。
「やってみよう! やってみるんだ!」
「い……、医学ではなく、科学力で、ですか!?」
「知り合いにマッドサイエンティストがいるんだ!」
スタインが笑顔を輝かせ、ダンベルを持った拳を振り上げる。
「彼に頼んでみる! オレがヒンニューイエローに、君がキョニューイエローになるんだ! 入れ替わるんだ!」
そう言うとダダーッ!と駆け出した。
「ま……マッドサイエンティスト……?」
平野ぺたはその後ろ姿を見送るしか出来なかった。
「……誰?」
(続く)




