ヒンニューイエローの根性
ヒンニューイエローこと平野ぺた。
もうすぐ二十歳の誕生日を迎える19歳である。
彼女には大人になるまでに叶えたい夢があった。
どうしても叶えたい──しかし、それは絶望的な夢が。
「ふんっ! ふんっ!」
ぺたが一人、運動公園の片隅にある高い鉄棒で懸垂をしていると、話しかけてくる人影があった。
「やあっ。やってるねえ!」
「あっ、センパイ!」
ぺたは鉄棒から降りると、心からの笑顔を浮かべて駆け寄った。
声を掛けてきた相手は黄色いトレーニングウェアに身を包み、両手に重量級のダンベルを持ち、余裕の笑顔でそれを軽々と振りながら歩いてくる。
彼女はキョニューイエローこと堀スタイン25歳。ぺたのライバルであり、最近仲良くなった先輩でもあった。
「センパイ! 今日もトレーニングですか?」
「ぺたちゃんこそ、毎日励むじゃないか」
堀スタインが自分のことを『ぺたちゃん』と呼んでくれるのを平野は嬉しく思っていた。
大抵の人は自分のことを『ぺったん』と呼ぶのだが、嫌いなその呼び方をしないセンパイは好感度がとても高かった。
二人は同じものを信じる同士でもあった。
「やっぱり根性が一番だよな」
「根性ですよね、センパイ!」
「でも、胸は今のところ、どうにもならないなあ……」
そう言って豪快に笑う堀スタイン。
「私も……今のところ、どうにも出来ていません……」
そう言って顔を暗くする平野ぺた。
「何を言う。オレは頑張ってもダメだったが、ぺたちゃんはまだ頑張ってすらいないじゃないか」
「頑張ったんです……。これでも色々試したんですよ……。マッサージも毎日欠かさずしたし、大豆製品を毎日食べて、サプリも併用して……。でも、遺伝子には勝てなかったんです」
平野ぺたが大人になるまでに叶えたい夢とは、巨乳になることであった。
逆に堀スタインは胸が大きすぎることが悩みである。なんとか小さくしようと頑張っていた。
「根性だ」
堀スタインが陽気な笑顔で言う。
「根性があれば何でも出来る!」
「センパイもまだ諦めてないんですか?」
「ああ。筋肉をつければ脂肪が燃えて胸が小さくなると信じ、日々筋トレを続けているよ。実際、元々Hカップだったのを根性でGカップまで小さく出来た」
「大きいのが嫌だなんて……羨ましいです」
「何を言う。戦う時にこんなもの邪魔でしょうがない。ぺたちゃんこそ身軽そうで羨ましいよ」
「Aカップを羨ましいなんて言ってくださるの……センパイだけです」
「共に頑張ろう! ド根性で!」
「でも……、どうやれば巨乳になれるのか……」
「そうだ」
堀スタインがぽんと手を叩いた。
「なあ、妊娠するとおっぱいは大きくなると言うよな?」
「妊娠しろっていうんですか!? さすがに、それは……」
「根性だよ」
堀スタインが真顔で言う。
「根性で想像妊娠するんだ」
「想像……妊娠……?」
尊敬するセンパイの口から出る言葉はなんでも信じられる気がした。
「頑張って巨乳になって、オレの代わりにキョニューイエローになってくれ。オレも頑張って胸を小さくして、君の代わりにヒンニューイエローになってみせる」
いつもその迫力に圧倒され、劣等感を思い知らされていた、あの巨乳戦隊の中に並ぶ自分の姿を思い浮かべ、ヒンニューイエローこと平野ぺたはうっとりするのであった。
「想像妊娠か……」
ぺたはセンパイの言葉に希望を見た気がした。
「よし! やるぞ!」
(続く)




