牛野とウシノ
暗い洞窟の中のような広い部屋に蝋燭の炎が揺らめいている。ここは悪の秘密組織『ギゼン』の秘密基地である。
暗い中に数人の者が集まっているが、その姿はよく見えない。
黒いマントを翻し、玉座に座る悪の首領『ケガレ・プレジデント』が大声を出した。
「怪人チカンジョ~シューはんは弱すぎたな……!」
白衣を纏い、赤い縁のメガネをかけた巨乳の女性がハイヒールを鳴らし、灯りの中へ進み出た。
「あの怪人にはわたくしの改造を施してありませんでした。なぜ、そんなポンコツを行かせたんですの?」
「ウシノか」
首領が彼女を高いところから見下ろす。
「おまえの改造した怪人は確かに強い。彼らを行かせれば、キョニュレンジャーどもも壊滅させられることだろう」
「では……」
「しかし、年功序列というものがあるのだ」
「ああ……」
ウシノが納得するような声を出す。
「松戸博士のことですのね?」
「ウム。松戸博士が自分の作った怪人を行かせろとうるさいのだ。ゆえに、まずは71歳の博士の作品を優先して派遣せざるを得ない。わかってくれ」
「才能が遥かに上でも、27歳のわたくしは、年齢で後回しにされているということですのね?」
「わかってくれ」
プイ!と後ろを向くと、ウシノは何も言わず、ハイヒールの靴音を早足で響かせて、暗い中へ消えて行った。
「牛野たん」
医務室にキョニューピンクが入ってきた。
「包丁で小指切っちゃった……」
「あらあら」
回転椅子に座ったキョニューグリーンこと牛野陽奈が艶めかしく笑う。
「慣れないお料理するなんて、花嫁修業かしら?」
陽奈が懐からでっかい注射器を取り出すのを見て、ピンクは慌てた。
「いっ……、いやっ……? 小指切っただけなのに、注射器は使わないよね? 痛いのいや! いつもみたいに優しくパフパフして!」
「ウフフ……。治療だけじゃ足りないみたいだから。貴女を改造してあげるわ」
「かっ……、改造!?」
「このお薬をお注射するとね、とってもお料理上手になれるのよ〜」
「ほっ……、ほんとに!?」
「う・そ」
そう言うとグリーンはピンクの小指を優しく手に取り、赤い紅を塗った唇に含んだ。
「ああ……あああ〜……」
恍惚の声を漏らすピンクの小指の傷が治っていく。
ちゅぽん、とピンクの小指を口から抜くと、グリーンは言った。
「はい、完治」
「はい、ロンパ……」
ピンクが焦点の合わないとろんとした目で意味不明なことを言った。
「改造してあげられたらピンクをお料理上手にさせてあげられるんだけどなあっ」
膝にしなだれかかるピンクの髪を撫でながら、グリーンは言った。
「改造が得意なほうのあたしは行方不明なの」
「そういえば牛野さん」
休憩室でネイルの手入れをしながら、キョニューレッドこと獏羽生玲子が言った。
「キョニュレンジャーのオーディションの時、あなた、二人いなかった?」
「いたわよ」
グリーンが答える。
「あたし達は一卵性双生児なの」
「えー? 双子だったのか? グリーンって」
キョニューイエローこと堀スタインが横から話に入ってきた。
「お姉ちゃん? それとも妹?」
「お姉ちゃんなの」
懐かしそうな目をしてグリーンが言う。
「ほんの数秒先に産まれたお姉ちゃん」
「で、陽奈さんが受かって、お姉さんは?」
レッドが聞く。
「行方不明よ」
「行方不明?」
「ええ……。今頃どこでどうしているかしら……。連絡が取れないの」
「顔、そっくりなんだろ?」
イエローが聞いた。
「まったく同じといっていいでしょうね。母でも見分けがつかないわ」
「それで」
イエローが遠慮も何もなく、聞いた。
「なんで陽奈さんが受かって、お姉ちゃんは落ちたんだ?」
「胸よ」
「胸?」
グリーンは自慢するようにではなく、溜め息をつきながら、言った。
「あたしはHカップ、姉はGカップ。見た目がまったく同じで、能力も互角だったから、わずかな胸の大きさの差で、姉は落とされたの」
「お姉さんのお名前は?」
レッドが聞いた。
「牛野……千房よ」
暗い洞窟の中のような、悪の秘密組織『ギゼン』の研究施設で、怪人『ドクター・チヴ』こと牛野千房は新しい怪人を作り出していた。
「ウフフ……。強い、強〜い怪人を作ってあげようねぇ」
溶接マスクを目に当てながら、女の怪人を組み立てていく。
火花が暗い部屋を燃え上がるように照らす。
「ほんのわずかな胸のサイズの差であたしを蹴落としたあいつらに復讐するのよ」
火花が怪人の顔を照らし出す。
その顔は製作者である彼女にそっくりで、嫉妬に歪んだような表情を浮かべていた。
「怪人ジェラス・レディー! キョニュレンジャーどもに復讐を!」




