出来すぎたお姉ちゃん
ヒンニューグリーンこと千々梨マリアはみんなの聖母様だと思われている。
妹のヒンニューレッドこと千々梨優美にはそれが気に食わなかった。
「おいおい……。誰だよ? これ買ってきたの?」
ヒンニューイエローこと平野ぺたが、開いたお菓子箱を前に呆然としながら、言った。
「生クリームプリン……、4つしかないじゃん」
「買ってきたの、一風部長だよ。5人いるのに……。4つって……」
ピンクが愕然としながら言う。
「誰かがなしってこと!? それとも等分する? できるの、これ!?」
グリーンこと千々梨マリアはにっこり微笑むと、みんなに言った。
「わたくしは結構ですわ」
「「「「ええっ!?」」」」と、4人がマリアのほうを見る。
「一番年上のお姉さんですもの。我慢しますわ。どうぞみんなで召し上がって」
「い……、いいの……?」
「た、食べにくいな……」
「そうだ。姉妹ではんぶんこしたら?」
「ううっ……!?」
またか……。またこのパターンか、と千々梨優美は思った。
物心ついた時からそうだった。
妹が駄々をこね、姉がいつも「わたくしは我慢いたしますわ」と言い、親が折衷案を提案し──
それでも姉は、いつでも妹にすべてを譲ってきたのだ。
「はんぶんこなど、優美ちゃんがお可哀想ですわ。全部、優美ちゃんが食べておしまいなさい」
マリアの後ろにピカーッ!と白く眩しい光が見えた。
後光に照らされ、姉は聖母の微笑みを浮かべる。
『出やがった……!』
優美が眩しがりながら、心で舌打ちをする。
『聖母の微笑み、出やがった!』
これで自分は生クリームプリンを一人で全部食べられる。
しかし、それはほんの一時の喜びだ。
その後、姉の偉業はみんなの記憶の中に、そして歴史に刻まれる。
一風部長はマリアのために「すまなかった、マリアくん」と言いながら、200円高いフルーツ生クリームプリンを後に買ってくることだろう。
姉の評価は高まり、メンバーの皆から、リーダーのレッドである自分よりも信頼され、自分は『妹であることをいいことに生クリームプリンを一人で全部食べてしまった卑しい子』呼ばわりされることだろう。
妹の苦労など誰も知らないで。服はお姉ちゃんのお下がりばっかりだったことなど誰も知らないで。
『そうさせるわけには行かないっ!』
妹の意地が、そこにあった。
「いいよ、お姉ちゃん。あたしが我慢するから。これ、全部一人で食べちゃって」
優美は噛みしめる唇から血を流しながら、生クリームプリンを姉に差し出した。
すると、姉のマリアは言ったのだ。
「大丈夫よ。わたくしはこの通り、Cカップまで育ってるから。発育中の優美ちゃんが食べちゃって。Aカップが少しでも育つかもしれないから」
爆発が起こった。足元から起こった小爆発に飛ばされるように、妹は吹っ飛んだ。
そしてよろよろと立ち上がると、Aカップが少しは育つことを信じるかのように、生クリームプリンをがしっと手に持ち、涙を流しながら口に運ぶのであった。
『いつか……お姉ちゃんを……超える人間になってみせるっ……!』




