デート
ユレンは毎日緋色と一緒に登下校するようになっていた。
彼と並んで見る景色は、いままでと違ったものに見えた。
つまらない選挙のポスターの中の人の顔さえもが、とても輝いて見えた。
「今度、一緒に遊園地に行かない?」
緋色に誘われ、二つ返事で「行く」と答えていた。
緋色は自分のすべてを認めてくれる。
自分の声の小ささも、Bカップのささやかな胸も、流されやすいように見えて芯の強い性格のことも。
ユレンはどんどん彼に惹かれて行った。
「駅前に怪人出現だ!」
HTVプロデューサー熱原哲司がマイクに向かって叫ぶ。
「貧乳戦隊おっぱいナインジャーZ! 出動っ!」
「なんでいっつも駅前に出現するのかしら」
変身して駆けながら、貧乳戦隊メンバー達が会話する。
「たまには遊園地とかにも現れてほしいよね」
「仕事終わりに遊べるもんね」
「あれっ? ブルーがいないよ?」
影の薄さにしばらく誰も気づかなかったが、出動する戦隊の中にヒンニューブルーの姿がなかった。
微風ユレンはその頃、遊園地でデートをしていた。
「ユレンちゃんは僕の運命の人だって思うんだ」
ひとつのチョコレートパフェを挟んで、緋色がユレンの目を見つめる。
「こんな気持ちになったのは初めてだ。ずっと、僕と、一緒にいてくれる?」
「緋色くん……」
頬を染め、ユレンも彼の目を見つめた。
「わたし……、ずっと緋色くんの側にいたい」
緋色がにっこり笑うのと、ユレンのスマホの着信音が鳴りはじめたのが同時だった。
電話に出ると、熱原の叱りつけるような声がする。
『ユレン! 何をしている? 駅前に怪人出現だ! 早くブルーに変身して駆けつけろ!』
電話を切ると、ユレンはすまなそうに言った。
「ごめん……。緋色くん。怪人出現なの。わたし、行かなくちゃ」
その手を緋色が掴む。
「なんで? ずっと側にいてくれるって言ったよね? あれ、嘘だったの?」
駅前に現れたのは怪人ざんぎょう法師だ。
お供に猿一匹を連れていた。
数珠を鳴らしてざんぎょう法師が歌う。
「定時退社の鐘の音……、諸行無常の響きあり……」
お供の猿がウキッと歯を剥いて威嚇する。
「娑婆躁呪の花の色……、盛者必衰の理をあらわす」
ざんぎょう法師がここでカッ!と目を開き、唱える。
「おまえらー!!! 遊んどる暇があったら働かんかー!!! 小人閑居して不善をなすじゃー!!!」
「面倒臭そうなのが出てきたわね」
ヒンニューレッドが舌打ちする。
「みんな! とっとと倒してサッサと退社しよう!」
「ゆるさんぞー。定時退社はゆるさんぞー」
怪人は憎むように貧乳戦隊を睨みつけると、吠えた。
「我が名はざんぎょう法師! こっちはお供のただの猿、名前は人身悟空じゃ! 貴様らを倒し、社会を24時間労働の地獄に変えてくれるわ!」
猿が太鼓持ちのように「ウキーッ!」と声を上げた。




