貧乳戦隊の恋は御法度
微風ユレンは転校生に恋をした。
しかし、貧乳戦隊おっぱいナインジャーZには恋愛禁止という鉄の掟がある。
かつてオーディションの時、合格者を前にして、プロデューサーの熱原哲司は言った。
「貧乳戦隊のメンバーは喫煙、飲酒、恋愛を禁止とする」
「ちょっ……ちょっといいですか?」
後にヒンニューイエローとなる平野ぺたが手を挙げた。
「喫煙、飲酒はわかりますけど……、恋愛禁止って、なんでですか? あたし達アイドルでもないのに」
「恋は心に弱さを生むからだ」
熱原がカッコいいことを言った。
「それに、恋は胸を育てるともいう。恋愛によって女性ホルモンが活発になり、貧乳でなくなられると困るからな。ゆえに禁止だ!」
ユレンが自習をしていると、転校生がやって来た。
「こんにちは! 微風ユレンさんですよね?」
びくっとして顔を上げると、優しくもどこか陰鬱な、イケメン転校生の顔がそこにあった。
ユレンは答えた。
「……」
転校生は微笑んだ。
「やっぱりそうかぁ。僕、戦隊ヒーローものの大ファンなんだ。サイン、いいですか?」
ちゃんと色紙を用意していた。
ユレンはそれに綺麗にサインをすると、聞いた。
「……?」
「あっ。『影山くんへ』でいいです」
『あれっ?』
ユレンは思った。
『この人、私の言葉が聞こえてる?』
「貧乳戦隊おっぱいナインジャー、いつも観てますよ」
影山緋色は照れ臭そうに、その番組名を口にした。
「頑張ってください」
微風ユレンが帰り道を女子達のあとをひっついて歩いていると、後ろから転校生が追いかけて来た。
「微風さーん! 帰り道、こっち?」
ユレンがうなずくと、嬉しそうに笑う。
「僕もこっちなんだ。よかったら2人で一緒に帰らない?」
「わっ!」
「わあっ!」
女子達が楽しそうな声を上げる。
「ユレン、あたし達はいいから」
「なんかお似合いだよ? 行け、行け」
押し出されるようにユレンが転校生の前に出る。
顔を真っ赤にしながら、ぺこりとお辞儀をして、言った。
「……」
よろしくお願いします、と言ったのだったが、屋外で発する声は教室の中よりも小さくなって、彼にはとても届かないように思えた。
「こちらこそよろしくお願いします」
転校生がそう言ったので、ユレンはびっくりして顔を上げた。
影山緋色の顔は暗いけれどイケメンで、とても信頼できる、依存さえしてもいいようなものに見えた。
『この人……、私の王子様なのかもしれない』
ユレンは緋色に運命のようなものを感じていた。




