大人しい彼女
ヒンニューブルーこと微風ユレンは17歳、女子高生である。
彼女は貧乳戦隊の仕事以外の時は、普通に学校に通っていた。
朝、登校すると、教室の扉を開けて、級友達に元気に挨拶をする。
「ぉ…ょー」
元気な声を出したつもりだったが、誰にも聞こえなかった。
しゅんとしながら自分の席に着くと、クラスのリーダー的存在の女子、家門竹子が取り巻きを従えて近づいてきた。
「ねーねー、ユレンちゃん。見てたよー。今回の怪人、強かったねぇ」
「…っ。タケ…ちゃん」
ユレンが嬉しそうに顔を上げる。
「でもさー、あんたの声、ちっとも聞こえないんだわ」
竹子はからかうように言った。
「もうちょっと大きな声で喋ろうよ。せっかくあんた、ウチの学校から出たスーパーヒーローなんだからさ」
「……ん」
「はい! もっと大きな声で!」
「……めん」
「『ごめん』って言ったのね?」
「…ん」
「まあ、いいわ」
竹子はユレンの肩をぽんと優しく叩いた。
「あんたみたいな可憐な美少女がハキハキなんかしたら、男子どもがうるさくなってしょうがないもんね」
微風ユレンはモテなかった。
というよりは、男子達は皆、彼女のことを非現実的な空想のアイドルのように見ていた。
現実に付き合おうとか、それ以前に好きになる者もいない。
彼女と会話すれば、それが無理なことがよくわかるだろう。
その声のあまりの小ささに、何度も『え? 何て言ったの?』と聞き直さないといけない彼女など、面倒臭いと誰もが思うのだ。
しかも彼女は貧乳戦隊おっぱいナインジャーZの戦士。
普通ではない、自分達とは生きる世界が違うのだと思われ、男子からは距離を置かれていた。
女子は皆、気軽に優しくしてくれる。どうやら母性本能をくすぐるらしい。
お世話してあげないと自分では何も出来ない子のように思われ、どうやらみんなの妹扱いされているふしがあった。
『私もみんなと同じように、恋がしたいなあ……』
ヒンニューブルーこと微風ユレンは考えていた。
『17歳なんだもん。思い出に残るような恋がしたいよ……』
次の日のHRで、先生が言った。
「転校生を紹介するわね」
転校生はどこか影のある、とても優しそうなイケメン男子だった。
愁いを帯びたイケボで自己紹介をはじめる。
「影山緋色です。趣味は戦隊ヒーローもののドラマを観ること。特技は特にありません。よろしく」
微風ユレンの目の中で、なぜか転校生の姿が輝いて見えた。
彼の周りに、キラキラの星のようなオーラが散りばめられているように見えたのだ。
ユレンは思った。
『これって……。私、恋をした……?』




