羽ばたけブルーシル
さやとことねは先に体育館に入って舞台裏で着々と準備をしていた。ギターの音の調整も完了しており後は出番を待つだけだ。
さやたちはバンド名であるBluecielのロゴが入った特注のTシャツを着ていた。
その後しばらくしてからかなでとひびきの二人も仕事を終えてこちらへきた。
「いよいよだねぇ。こんな大勢の前で演奏するのやっぱなれないよ~」
気怠けな雰囲気で目を擦りながら言うかなで。
「こんなときくらいシャキッとしなさいよ! もっと元気に!」
かなでの背中をバーンと叩くひびき。
練習期間中に聞いた話だがかなでとひびきは中学からの付き合いらしく、生活態度がよろしくないかなでの世話をよくひびきが見てるらしい。
次のステージイベントに移行するアナウンスが聞こえる。次の出し物が終わったらさや達の出番だ。
するとその場の雰囲気を変えるように軽音部の部長であることねが指揮をとる。
「この時をずっと待ってたんだ。文化祭で自分たちのバンド、ブルーシルのオリジナル曲を演奏する。そのためにずっと練習してきた……だから最高のライブにしようね」
真剣で、だけれども優しい声でことねは言う。
「準備はいいかな?」
「もちのロン!」
「やる気バリ増しよ!」
「うん……」
円陣を囲みそれぞれ片手を重ね合わせる。
「空に羽ばたけ!」
『ブルーシル!!』
この日のために考えていた掛け声を四人は言う。協調性を増すために考えられた掛け声だがさやは気恥ずかしくてあまり大きな声で言えなかった。
◇
体育館のステージイベントにはたくさんの観客が押し寄せていた。
学校外の人も学校の生徒も多くの人数がステージイベントを見に来ている。つむぎもその観客の一人だった。
ステージではクラスでのダンスや演劇が披露される。どの出し物もこの日のために頑張った成果が出ていて輝いている。
この雰囲気はアンリアルライブフェスを思い出すなとつむぎは思った。お祭りはリアルでもアンリアルでも楽しい。
そんなことをつむぎは思いながらさや達の出番を待っていた。
『続いては軽音部のバンド演奏です』
ついに軽音部の出番がやってきた。
閉じていた袖幕が開いていきことねたちが姿を現す。
ギター二人ベース、ドラム各一人ずつで構成されている。
ボーカル担当のことねとさやの前にはマイクスタンドが置かれてあった。
「どうも、軽音部部長のことねです。バンド名はブルーシルっていいます」
ことねによるバンド挨拶が始まる。
「今日は念願の文化祭でのライブ。この日のために私たちは頑張ってきました。その集大成を今日見せたいと思います。では聞いてください。ブルーシルで───」
曲名を言った後それぞれが愛用している楽器を構えた。
そうして全員が準備を終えた後、ひびきがドラムスティックでスタートの合図をする。
1、2、 3とスティックを叩いた後、演奏が始まった。
ギターが二つになったその曲は以前聞いた時より何倍も曲に厚みができ曲としての自由度が上がっていた。
そしてAメロに入ってからさやとことねが交互にボーカルを担当していく。ことねのさわやかな歌声とさやのクールでかっこいい低音も高音も行ける歌声が交差しエモさをより増して行く。
サビでは二人がハモり美しい歌声が響く。
青春を謳ったその曲は今その瞬間を大切に生きようとする学生の気持ちを現していて共感性をより深めていった。
観客ははじめて聞く曲であるのにも関わらずうちわやサイリウムを振り盛り上がっていた。
それだけこの場の雰囲気をブルーシルが虜にさせていた。
つむぎも例外でなくこの日のために用意していたサイリウムを振って一観客として演奏を楽しんでいた。
こうしてブルーシルのライブは大成功を迎えた。
◇
「みんなお疲れさま~」
つむぎはライブが終わり舞台裏から出てきたさやたちを迎えにきていた。
「ありがとうつむ。ライブどうだった?」
「以前聞いたときの何倍も良かったよ! みんなの演奏とさやちゃんとことねちゃんのボーカルの良さがエモみを増してとっても素敵だった!」
とてもキラキラしたハイテンションでつむぎは言う。先程のライブの盛り上がりはとてもすごくて余韻がまだ残っていた。
「ねぇすごいよねぇ。練習中もさやっちのボーカルほんと高校生だと思えないくらい上手いんだもん。このままyou軽音部入っちゃいなよ~」
かなでが悪ふざけのように言う。
するとことねは真剣な表情でさやの方を見る。
「その……さや。ほんとは今回限りの助っ人の予定だったけど出来れば今後も軽音部、ブルーシルに入ってくれないかな? さやとバンドするのことたち凄い楽しかったんだ。もっと君と音楽がしたい」
ことねの顔は本気だった。
練習をしているに連れて一緒に演奏することが楽しくてしょうがなかったのだろうか。そう思えるくらいステージ上の彼女達は輝いて楽しそうに見えた。
さやはことねとかなで、ひびきの三人を見る。自らの表情は変えず三人の入ってほしいという表情をみた後さやはつむぎの方へと向かった。
それでだめかと全員が思う。
しかしさやは背を向けて話す。
「練習は他にやりたいことがあるからあまり参加できない……けれど、必要な時は呼んで。その時は参加する……」
その言葉でぱぁっと周りが明るくなった。
これが彼女なりの答えなのだろう。
「これからもよろしく~さやっち」
「私も嬉しいわ! もっと一緒にバンドしましょ!」
さやの後ろにはかなでとひびきが嬉しそうに喋っていた。
つむぎはそれを微笑ましそうにさやをみる。
さやもつむぎを見て少しだけ微笑んでいた。
こうしてさやの日常が少し充実した物へとかわりつつあった。
◇
「間違いない……間違いないわ……」
その頃一人の少女がブルーシルの演奏を聴いた後ぶつぶつと小言を呟いていた。
「あの歌声……あのギター……どう考えても彼女しかいない……」
体育館から出ていこうとする水色の髪の少女を見ながら彼女は思う。
「小太刀咲夜……」
少女はぽつりと一人のアンリアルドリーマーの名前を言った。




