衝撃的な出会い
ひなたと別れたつむぎは一人ベンチに座って今日の出来事に思いをふける。
「今日は本当に楽しかったなぁ……」
胸がいっぱいになるほどの気持ちをつぶやく。
Unreally、非現実性世界。そこは平凡な日々を送っていたつむぎを一歩先の世界へ連れて行くのに十分だった。
「はいどうもこんにちは! アンリアルドリマーの○○です! 今日はこのエストヴィル、オルベージュ区に……」
撮影をしてるらしいアンリアルドリマーらしき人の声が聞こえた。そうだ、ここはUドリマーのいる世界だと言うことを思い出す。
あたりを見回す。そこには輝かしい人々の姿があった。
好きな姿をして和気あいあいと話し込んでる人々。
あそこのスイーツがおいしいとか、あの場所に今度一緒に行こうとか他愛のない話が聞こえる。
近くにある大画面のモニターでアンリアルドリーマーの動画が映し出されてそれをみて立ち尽くしている人々。
ありとあらゆる人々がつむぎには輝いて見えた。
「キラキラしたなにか、か…」
紫と赤が混じりあった空に右手を伸ばし顔を隠すようにして思う。
自分の当初の目的を思い出していた。確かにUnreallyはとても素晴らしいところだった。なにもかもが輝いて見えた。
しかし自分はそのキラキラしたものの一つになれただろうか。なんだか勿体ないように思う。場違いなのではないかと。
一人になりさっきまで騒いでた時と違って、寂しさが込み上げてくる。
「いけない、いけないこんなときは……うん! Dreamtubeに限るね! たしかメニューの中に……あった!」
メニューの中にDreamtubeの項目があったことを思い出す。
その項目を選ぶと慣れ親しんだDreamtubeのホーム画面が現れる。
今日は何をみようか、せっかくだから新しいUドリーマーの動画を見てみようかなとつむぎはアンリアルドリーマーで新着を検索する。
その中にひとつ引き込まれるサムネイルがあった。
タイトルには小太刀咲夜とだけ書かれており、サムネイルは白と黒でデザインされたギターを持った少女が特徴的だった。
シンプルなサムネイルとタイトルだったがその少女につむぎは見惚れていた。
その動画をつむぎはひらく。
小太刀咲夜 │小太刀咲夜
「はじめまして、小太刀咲夜……です」
そこには白いボブの髪に長い黒いメッシュが左右にある、パンクな格好をした少女がいた。
はじめてみるアンリアルドリーマーだった。クールな落ち着いた声だった。
緑色のジト目で画面を見つめてくる彼女はかっこよくそしてかわいらしくもあった。
「私は音楽とゲームが好きかな。これから動画はゲームとか演奏してる姿を撮影したいと思ってる。あとはなんだろう……自己紹介って難しいね……。いいや、なにか話すより実際私を知ってもらうならこっちのがいい……」
すると突然咲夜の手からギターが召喚される。サムネイルであったギターだ。
「聞いてください、小太刀咲夜でTo_Live_Song_Beats」
咲夜はギターを演奏しはじめる。
かっこいいギターのイントロが流れる。そしてAメロに入る。
「っ……!?」
つむぎはそこから聞き入ってしまう。咲夜の歌声に、音楽の世界に見入ってしまった。
演奏はかっこよく美しくてピアノの音も聞こえる。
歌詞は少し切なくて寂しくてなにかを求めているような歌詞だった。
その綺麗でかっこよく美しい歌声はつむぎが聞いた中でもトップに入る実力だ。
「以上です。……最後まで見てくれてありがとう」
演奏を終えた咲夜はお辞儀をし動画は終わる。
「すごい……すごいよっ……!」
つむぎは胸が高鳴った。
とても凄い人材を見つけてしまった。まだ登録者が数人しかいない、できたばかりのチャンネルだ。
これはチャンネル登録をしなくてはとつむぎはチャンネル登録ボタンとスマイルボタンを押す。
そして溢れるばかりの動画の感想をコメントしようとしそこで手をとめる。
「この子もUnreallyにいるんだよね? 直接会えたりしないかな」
ふとそんな事を考えた。アンリアルドリーマーならUnreallyにいるはずだ。
会うことだって不可能ではない。
そんなことを思うがまぁ無理か。とつむぎは思う。
会おうとしても彼女がどこにいるかなんて分からないし今ログインしてるとも限らない。
素直に動画にコメントを書くかと思ったとき……
「なにか悩み事かな?」
「ちょっとね……って……えっ!?」
つむぎは話しかけてきた人物を見て硬直する。
その子は黒髪のハーフツインに髪のいろんな場所に様々な色をしたメッシュををつけた女の子だった。
つむぎはこの少女を知っている。
いや知らない方がおかしいだろうというほどに、その少女のことをこの世界の人々は知っているだろう。
「こ、こ、こころちゃんっ!?」
「あなたの心は何色? 七色こころだよ!」
七色こころ。チャンネル登録者5000万人の世界一のアンリアルドリーマー。
手を後ろに回し顔を覗いていた彼女はこちらが気が付くと微笑み、いつもの声で挨拶をする。間違いない本人だ。
「ど、どうしてこころちゃんがここに!?」
「私はこの世界に組み込まれたAI。故にこの世界の全てが私のテリトリー。どこにでもいるのです!」
「そ、そうなんだっ。わたしこころちゃんの大ファンでまさか会えるなんて思いもよらなかったよ……」
「私のファン、つむぎちゃんつむぎちゃん……ふむふむ」
するとこころは目を閉じなにかを考える。そしてなにかわかったかのように言う。
「つむぎちゃん! もしかしてUnitterやDreamtubeでも同じ名前かな?」
「う、うんそうだよ?」
「そっか! いつも応援ありがとうね! ファンアートも描いてくれたりしてとっても嬉しいよ!」
こころはいくつかのイラストを出し空中に浮かせる。それはつむぎがこころに描いたファンアートだった。
「すごい! どうしてわかったの!?」
5000万人もいる登録者の中でつむぎ一人を見つけることなど普通の人間では難しいだろう。
「私はネット上で私を応援してくれる人全員を一人一人知っているのです! とくにつむぎちゃんみたいな熱心なファンはすぐにわかったよ」
そうであった。彼女はAI。
人間離れしたことだって可能なのだ。
彼女はUnitterにおいてもDreamtubeにおいてもついたコメントには誰にだってコメントを返す。
つむぎも何度も返信してもらったことがある。
前に深夜2時を越えるまで長時間Unitterで返信のやりとりをしていたことだってある。
そんな人間を超越したファンとのやりとりができるのがこころの魅力の一つであった。
「そうだ! せっかく会えたしつむぎちゃんのイメージカラー占いをしてあげる!」
「ほんとにっ!? わたしあれやってみたかったんだぁ」
イメージカラー占いはこころが他のアンリアルドリーマーとコラボしたときにやることがある占いだ。
相手のことを分析しぴったりなイメージカラーを教える。その色はその人の心だったり将来を表している。
ちなみにこころは虹色だ。
「それじゃあ占うね」
そういってこころはつむぎの手を取り目を閉じる。
「あなたの色を分析中……」
目を閉じたこころはメッシュの色をさまざな色に変化させ光らせる。
そのメッシュはサイリウムのように変化することからサイリウムメッシュと呼ばれている。
自分の色は何色だろう。
赤かな、青だったり、まさかこころと同じ虹色だったりして。そんなことを期待に胸踊らせるつむぎ。
こころが目をひらく。
分析が終わったようだ。そしてこころは言う。
「つむぎちゃんは白。まっしろだね!」
「白……」
こころはメッシュを白一色に光らせて言う。
白は嫌いな色ではない。だがなんか拍子抜けだった。
真っ白ということは無色ということなのではないかと。
「でも大丈夫……」
そんなつむぎを見てこころは笑顔で言う。
「白はこれから何色にでもなれる希望の色……これから自分の色を探していけばいいよ」
「そっか……そうだね。ありがとうこころちゃん!」
こころの言葉につむぎは元気をもらう。色がないなら見つければいい。
「それでなにか悩み事があったみたいだけど大丈夫?」
「あぁ、そうだった!?」
忘れるところだった。
「わたしとある子の動画を見て凄い心に来て直接感想を言いたいなって思ったの。小太刀咲夜ちゃんっていうんだけど。アンリアルドリーマーだからUnreallyにいるだろうし会えたりしないかなって……」
無理だとわかっていてえへへっと笑いながら言うつむぎ。
「なるほど」
すると右手を口元に当て考え事をするこころ。
「うん、咲夜ちゃんなら今Unreallyにいるね。場所もわかるよ」
「わかるのっ!?」
「言ったでしょUnreallyはわたしの庭なのです!」
「さすがAI!」
つむぎがおだてるとこころはえっへんといった表情をする。
その後こころのとなりに輪っかが現れ別の空間とつながっているとおもわしき映像が現れた。
「つむぎちゃんは今日はじめたばかりらしいから教えるね。これはワープゲート。移動する時に使うよ」
「へぇ……」
今日Unreallyをはじめたことはまだ言ってないがこころならなにもかもお見通しなのだろう。
「ここに咲夜ちゃんがいるよ。いくかどうかはつむぎちゃん次第」
つむぎを見つめるこころ。
つむぎはもう決心していた。
「わたし……行ってくるよ!」
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