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親友

 時刻は午後五時。

 6月の空はまだ夕暮れになるにはまだ早い、すみきった晴れた空。



 つむぎは姫乃公園の噴水の場所でさやを待っていた。


 彼女が来てくれる。そんな保証はひとつもない。

 

 さやはリアルでは関わらないでと言ったのだ。Unreallyでは会ってくれても、現実であってくれるかはわからない。


 そうだとしてもつむぎは待つ。たとえ何十分でも何時間でも。



 そして三十分後、時間が経過した。



「来てくれたね……」


「……」

 


 さやが噴水の前にやってきた。無表情で悲しそうな、寂しそうにも思える目をして。



「どうして……リアルの私を呼んだの?」



 低く、冷たく震える声でさやは尋ねる。よく聞けばその声はやはり、咲夜と同じだった。



「黒葛さんと、仲良くなるためだよっ」



 つむぎは言う。それを聞いてさやはまた前のように、怖い目付きでつむぎを見る。



「私はあなたとは仲良くなれない……」


「でもUnreallyではわたしたち友達だよ!」


「現実の私とUnreallyの私は別物……あなたの知ってる咲夜と私は違う」


 

 さやの意志は揺るがない。揺るぎようがない。

 だがそれでも、つむぎは諦めない。



「それは違うよ! リアルの黒葛さんもUnreallyの咲夜ちゃんも、どっちもが本当の黒葛さんで咲夜ちゃんなんだよ。だって心は一緒なんだから……!」



 さやの言葉をつむぎは強く否定する。

 

 咲夜と過ごしてきたここ数ヵ月の思い出。その楽しい思い出は心の中に残っている。

 

 それはUnreallyを外してリアルに戻っても、残り続けるのだ。


 それと同じように心が一緒なら、リアルでもアンリアルでも通じられるはずだ。



「どうしてそんなに私に拘るの?」


「だって咲夜ちゃんのことが大好きだから! それと黒葛さん……ううん、さやちゃんのこともちゃんと知って好きになりたい」



 はじめてつむぎはさやのことを下の名前で呼ぶ。今まで距離を感じて呼べてなかったが、そんなことはもういい。


 自分のありのままの気持ちをさやに打ち明ける。


 

 だがさやは背中を向けた。



「私のことは放っておいて……!」



 さや少し怒っているように言い、立ち去ろうと歩いていく。



「放っておけないよ!!」



 だがこのつむぎの叫びに、さやは反応して立ち止まる。



「本当は一人でいるのが寂しいんでしょ! 咲夜ちゃん作る曲は寂しくて切ない……誰かにそっと手を差しのべてもらいたい。そんな曲だって聞いててわかるもん! だからわたしは最初、咲夜ちゃんの元へ現れたんだよ!」



 それを聞いてさやはこちらを向いた。

 

 さやの作る曲はかっこいい。だが歌詞や曲のメロディーを聞くとそのかっこよさの中に、切なさと寂しさが入り交じっているのがわかる。


 本当は寂しがりやで、一人でいるのは強がりで輪の中に入りたい。そんな曲だ。

 

 なにより教室で一人でぽつんとしている彼女が放っておけなかった。



「確かに私の曲はその通り……。けれど無理……もう友達だと思ってた人間に裏切られるのは嫌だ……」



 その声はトラウマを思い出しているようなそんな怯えた声だった。




「だったらっ!!」




 つむぎは右足を一歩踏み込み叫ぶ。



「友達って言葉じゃ言い表せないくらいの″親友″になろうよ!!」


「親友……?」



 大きく叫ぶつむぎとは対照的に、さやは小さく呟く。



「わたしにはね、二人の親友がいるんだ」



 つむぎは語り始める。



「一人はひなたちゃんでわたしの幼馴染みなの。引っ込み事案なわたしをいつも引っ張ってくれて、太陽のように明るくてわたしの憧れなんだ」



 ひなたとの思い出を脳内で振り返りながらつむぎは言う。

 

 ひなたは近所の小さい頃からの幼馴染みでいつも一緒に遊んでくれた。


 ときどき意地悪な所があるが、根は人に優しくて困ってる人を放っておけない良い子だ。今のつむぎがあるのは彼女のおかげといってもいい。



「もう一人はことねちゃん。高校の入学式の日、一人で不安だったわたしに優しく声をかけてくれたのがことねちゃんで。それから友達になっていつも話しかけてくれるの」



 ことねがいなければクラスで孤立していたかもしれない。そんなことを考えたこともあった。


 二人がいなければきっと、つむぎもさやみたいな状況におかれてもおかしくなかったのだ。



「そんな二人をね。わたしは大切な友達だと思ってる。友達って言葉じゃ足りないくらいに……。だからわたしは二人のことを″親友″って心の中で呼んでるんだ。そしてさやちゃんとも親友になれると思ってる。ううん、もう咲夜ちゃんとは親友だよ。だからさやちゃんのことも、もっと知りたい……ダメかな?」



 精一杯の気持ちをつむぎは伝えた。

 この気持ちが伝わらずそれでも離れてしまうならもう諦めるしかない。


 伝わるかはわからない。

 これ以上の答えはわからない。

 だから信じる。信じてほしいと思った。



 さやはこちらに数歩進んでくる。


「アンリアルの仮面をつけてない私といたって……なにも楽しくない……」


「仮面をつけていなくてもさやちゃんの魅力は変わらないよ。たとえ見た目がアンリアルとちがくてもなりたい自分とは真逆でも、心の奥は変わらない」


 一歩さやは近づく。

 つむぎとの距離はもう一メートルしかなかった。


「本当に私なんかと親友になってくれるの?」


「うん。さやちゃんとならきっとかけがけのない親友になれるよ」



 つむぎは手をさやの方に向けた。


 まるではじめて咲夜がつむぎに手を差しのべてくれた時のように。



「だから今度はわたしが手を差し伸べる番だよ。さやちゃん……わたしと親友になってくれませんか?」

 


 じっとさやの瞳を見つめた。さやもつむぎの瞳を見つめる。



 そしてさやはつむぎの手を握った。



「これからよろしく……つむぎ」



 そう言ったさやは、頬を少しだけ緩ませていた。



「うん、これからわたしたち親友だよ!」



 笑顔でつむぎは両手でさやの手を握った。



「リアルの感触って……こんなにも温もりがあるんだね……」



 さやの目には一粒の涙がこぼれ落ちた。


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