破壊と創造と孤独な少女
授業の間にある休み時間。
その時間を利用してつむぎは一つの動画を見ていた。
それはMVで正確には曲を聴いていたと言った方がいいかもしれない。
動画のタイトルは
Descreation【MV】│ 神咲レア
トップアンリアルドリーマーの一人
神咲レアの曲だ。
先月CDが発売されたばかりの曲で、その楽器による演奏の綺麗さ、力強い歌唱力は圧巻のもの。
すべてを破壊しそして最後に創り直す
そう詠ったこの曲はダークながらもかっこよくて高い評価を得られていた。
再生数も既に数千万再生されている。
映像も綺麗でそこにはゴシックなドレスを着た、黒みがかった濃い紫の長い髪をたなびかせた少女神咲レアが歌う姿が映っている。
その映像に
レア様最高!
レア様美しい! かっこいい!
これは神曲!
さすがレア様の作る曲は安定して素敵!
というコメントがたくさん載せられている。
この曲はレアが歌っているだけではなく、作詞作曲も彼女がしている。
彼女はアンリアルドリーマー初のシンガーソングライターでもあった。
動画が再生を終える。充実した時間だった。
何度聴いても素敵な音楽は聴いてて飽きない。
動画を見終わったつむぎはスマホをしまいまわりを見渡した。
ひなたとことねは別の友達と会話をしているようだ。
喋る相手がいない。隣の席を見てみる。
隣の席の黒葛さやはいつものようにぽつんとひとり、ヘッドホンをしていた。
だがスマホの画面を見ている。動画を見ているのだろうか。
どんなのを見ているのか気になりちょっと覗き見をした。
そこにはなんと先ほどまでつむぎが見てたのと同じ神咲レアのMVが映っていた。
そう言えば彼女はつむぎの初バイトの初日に神咲レアのCDを買っていた。
神咲レアのファンなのだろう。
そこであることを考える。
そして心の中でよーしと呟く。
ちょうどさやはヘッドホンを取り、次の授業の準備をしていた。
「あの、黒葛さん……!」
「なに……?」
意を決してつむぎはさやに声をかける。無表情だが彼女は反応してくれた。
バイトでのやりとりを除けば、これがつむぎとさやのはじめての会話だった。
せっかく隣の席になったんだ。彼女と仲良くしてみたい。
すぐ友達になるのは難しいかもしれないけど、少しは話せたらいいなと思って。
「黒葛さんも神咲レアちゃん好きなんだね!」
「ああ…………まぁ……」
どうしてそんな事知ってるんだという風に睨んでるように見えたが、スマホの画面を見て、つむぎがさやのスマホ画面を見たことが分かった。
動画は終了しているがスマホの画面には神咲レアの動画の画面が映っていた。
「わたしもレアちゃんの曲かっこよくて好きなんだ! 先月CD買ってたよね? わたしレジの店員だったんだよ、気づいてた?」
「そんなの、覚えてない……」
「だ、だよねー……」
共通の好きなものを話題にすれば仲良くなれるかもしれない。
そんな期待をしたがさやは甘くなく、つむぎの会話に興味無さげに冷たく回答する。
…………
「……もうすぐ授業……席ついたら?」
「そ、そうだよねー」
沈黙を先に破ったのはさやだった。時計をみると確かに残り1分で、授業がはじまる時間だ。
つむぎは言われるがまま席についた。
呆気なく撃沈した。
流石コミュニケーションに長けたひなたでさえ仲良くなることが出来なかった相手だ。
自分では相手にならなかった。
せっかく勇気を振り絞っても駄目だった。
彼女と仲良くすることは出来ないのだろうか。