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Monochrome

「さぁいよいよ演奏の始まりです! まず先行はほむらすみれちゃん! ピアノニストとしてUnreallyでは活動していきその指先の音色で多くの人を虜にしていきました!」



 こころが司会を進行させる。

 ステージにはすみれが立っていた。


 ロリータの衣装を見に纏った彼女はぺこりとお辞儀をした。



「ほむらすみれです。みんなわたしの曲の虜になってくださいね」



 自己紹介をしてから彼女はステージのグランドピアノの席に座る。

 そして演奏をしはじめた。



「~♪」



 彼女の演奏はやはりかすみ本人であることがわかるくらい繊細で細やかな動きをしていた。


 そして流れる綺麗な音色。

 しかしそれはどこかせつなげで悲劇を物語っているようにも見えた。



「ご静聴ありがとうございました」



 演奏が終わるとまたぺこりとお辞儀をして彼女の出番は終わった。


 観客からは拍手が巻き起こる。

 素晴らしい演奏であった。



「さぁ次は小太刀咲夜ちゃん! 自分で作詞作曲全部してて音楽に精通してるスペシャリスト! 果たして今日はどんな曲を演奏してくれるのかな?」



 ステージが変化しそこには咲夜が立っていた。

 こころが楽しそうな表情で言い咲夜を見ていた。


 咲夜は深呼吸をする。


 咲夜はなんの曲を演奏するかはずっと迷っていた。

 でも今ならあれしかない……

 

 咲夜はそう決意し、一つの曲名を言う。



「小太刀咲夜です。それでは聞いてください……Monochrome(モノクローム)



 そして咲夜はギターを演奏し始めた。

 Monochromeそれはつむぎと一緒に作ったモノクロームをロック風にアレンジした曲だった。


 歌の歌詞はそのままに、今まで培ってきたものをすべて乗せて歌う。

 

 人生ではじめて作った曲

 つむぎと一緒に作った曲

 かすみに正体がバレるきっかけとなった曲


 それらすべてが詰まったこの曲のリメイクこそ今この場にふさわしい。


 新しい一歩を踏み出すために

 怯えていた過去を打ち消すために

 咲夜は全力で歌い演奏した。



「ありがとうございました」



 演奏が終わり一斉に拍手が巻き起こった。

 その勢いはすみれのときと同じくらいだった。

 これですべてが終わる。

 過去との因縁が。



 ◇



「さぁ二人とも素晴らしい演奏でした! それでは制限時間は五分! 投票開始です!」



 そして投票が始まる。

 会場とこころの配信から投票できる二つの選択肢を視聴者は選択していく。


 泣いても笑ってもこれが最後だ。

 つむぎは舞台の裏から結果を見守っていた。


 咲夜とすみれはお互い並ぶようにステージの中心に立っていた。


 緊張の五分間。

 それはあっという間に過ぎていくのが早かった。



「さぁ投票が決まりました! 果たして投票結果は……」



 ステージの後に大きなディスプレイが表示される。


 そこには咲夜とすみれの投票数が増えていくのが見えた。

 投票数は同じタイミングで同じように増えていく。つまり先に投票数が表示された方が負けだ。

 投票数はどちらも10万票を越えていた。

 さすがこころの配信。ただなんとなく見に来た人も二人の演奏を客観的に評価することができそれによりどれだけ評価されてるのかが明確にわかった。


 そして投票数が止まった。


 しかしそれはほぼ同時だった。



「投票結果 ほむらすみれちゃん 212561票! 小太刀咲夜ちゃん 216279票! なんと僅差! 勝ったのは小太刀咲夜ちゃん!」



 一気に歓声が巻き起こる。


 咲夜を祝福する声が巻きおこった。

 咲夜は微笑みそしてすみれをみた。


 ガタッとすみれは膝を落としていた。



「負けた……結果は僅差……でも圧倒的に足りないものがあった……わたしはあなたを追い抜くことばかりに集中して周りに目を向けられてなかった……そしてなによりわたし自身が楽しむのを忘れてた…」



 彼女は自分の敗因を探るかのように言う。

 咲夜との明確な違い。

 それは咲夜の音楽は自分が楽しみその中で周りにも楽しんでもらうことだからだ。


 咲夜ははじめ自分のために音楽を作ってきた。

 そんな彼女がつむぎと出会ってから誰かのために向けて曲を作るように心変わりをしていった。


 それに対しすみれは一直線に咲夜に向けた対抗心だけを曲に乗せ演奏していた。


 それが大きな違いだった。


 するとすみれの瞳からは涙が溢れだしていた。



「本当はあなたの演奏を一番近くでずっと見たかった! あなたのそばにいてもふさわしい存在になりたかった! それだけだったのに……だから認められるために追い抜く必要があった……例えあなたと離ればなれになっても……でもそれが間違いだった……」



 ボロボロと後悔するように涙を流すすみれ。

 彼女はただ想いがすれ違っていただけだった。

 咲夜のことをさやのことを友達だと思ってたからこそ遠くの存在になるのを怖がっていた。


 誰よりもほんとうにさやのそばにいたかったのはすみれだったのだ。


 すみれは立ち上がり背を向ける。



「わたしは失格……Uドリーマーとしてもアーティストとしても……」



 すみれはもうこれでさよならとでも言うように立ち去ろうとしていた。



「そんなことない」



 咲夜がすみれに対して言う。

 その声を聞いてすみれは足を止め咲夜の方を振り向いた。



「すみれは演奏でたくさんの人を幸せにしてる。それは私に追い付きたいって努力あってのこと。だからここまで評価されるようになったし勝ち負けが全てじゃない。どっちが劣っているとかは本来存在しないんだ……誰かの心に響いたならそれは立派なアーティストだよ」


「咲夜ちゃん……」



 咲夜は微笑みかけるようにすみれに言う。

 涙目のすみれはそれを拭うように目を擦る。



「こんなこと今さら過ぎるのは図々承知なのは分かってる。でもお願いがあるの……本当は素直になれなかったあの日の答え……」



 すみれは深呼吸をしてから次の言葉を発した。



「わたしはあなたと友達になりたい……だめかな?」



 それは素直な本来のすみれの気持ちだった。


 だが咲夜は首を振る。



「友達になることはできない……」


「そうだよね……」



 しょんぼりと悲しそうな表情をするすみれ。

 しかし咲夜の言葉は続いていた。



「友達じゃない……それ以上の親友にこれからなっていこう……」



 それが咲夜の答えだ。



「いいの?」



 思わぬ回答にきょとんとするすみれ。

 それに対し咲夜は微笑む。



「やり直したいんだ私は……あの日なれなかった私たちの関係に……」



 咲夜は手を差し伸べた。

 すみれは少しためらいながらもその手を握る。



「よろこんで……」




 その新たな友情が芽生える瞬間に多くの視聴者が感動を覚えたという。


 これで幸せなハッピーエンドのはずだ。



 なのに


 なのに



「なんでだろう……胸が苦しいな……」 



 つむぎはその胸の痛みを理解できずに、ただもやもやとその光景を見ていた。


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