誰よりもあなたの…
つむぎはさやの家に行く前に支度をしに家に戻る。
つむぎは母に許可をもらい着替えなど荷物を取ってきて服を着替えてからさやの家に向かった。
「おじゃまするね」
向かいいれてくれたさやは部屋着に着替えていた。
その後つむぎはさやの家のリビングに入る。
高級マンションのさやの家はつむぎは最初入るのにためらいがあったが今となってはそれは些細なことだ。
つむぎはリビングを見渡したあとキッチンの方を見る。キッチンには食材が置いてあった。
「今日ってご飯なにか作る予定だった?」
「うん……カレー作ろうと思ってた」
「そっか、じゃあわたしも一緒に作るよ!」
「ありがとう……」
さやは少しだけ顔色が良くなってきた。
やはり彼女のそばにいて正解だったかもしれない。それはただ自分がそばにいてあげたいだけなのかもしれないが。
それから二人はカレーの材料を手分けして切っていく事にした。
つむぎはたまねぎを切っていく。
リアルでの料理はいつぶりだろうか。
Unreallyでは料理企画もやっているためそこまで久しぶりな気は自然としなかった。
「いたっ……」
しかし不注意で人指し指に包丁の刃がかすり切り傷ができてしまう。
「今絆創膏探してくるから座ってて……」
さやが絆創膏を取りにリビングを漁る。
つむぎはさやの言う通りに従いソファーに座った。
さやは戻ってくると絆創膏を手にしておりつむぎの切った人差し指に絆創膏を貼る。
「これでよし……」
「えへへ……ごめんね」
「いいよ……痛くなかった?」
「大丈夫これくらいすぐ治るよ。そりゃアンリアルよりは痛むけどさ」
幸いにも浅く少し血が出るくらいだった。
だがUnreallyだったらちょっとの痛覚を感じたらすぐに消え去るだろう。そう思うとやはりリアルは不便だ。
だがそれ以上に、心の傷はどこへいようとも変わりはしない。
彼女の痛みに比べたらこんなことなんてことなかった。
◇
カレーが完成し二人は夕食を食べその後リビングのソファーでココアを飲んでいた。
「私の音楽は不幸にするのかな……」
右隣に座るさやがココアを口にしながら言う。顔色は多少よくなってもまだ気持ちは悪いままのようだ。
「どうして?」
とつむぎは問う。
「かすみは私がいなければきっと幸せでいたと思う。もっと自由に音楽ができたはず。彼女がああなってしまったのは私のせい……私はどうすれば……」
さやは自分を追い詰め追い込んでいた。
自分のせいでかすみは不幸になったと。
自分がいたから彼女はプレッシャーや嫉妬を負ってしまったと。
自分さえいなければとそういう考えになっていた。
「大丈夫だよ……」
だからつむぎは手を両手で握る。
彼女が存在しない方がいい世界なんて存在しない。
「さやちゃんの音楽は多くの人を幸せにするから」
「そんな確証ある?」
さやはそれを信じていなかった。
だからつむぎは言う。
「わたしはね……さやちゃんの音楽があったからさやちゃんに出会うことが出来て、辛いときくじけそうな時もさやちゃんの音楽に救われたんだよ。誰よりもあなたのファンであるわたしが言うんだもん」
つむぎは笑顔で言う。
「つむぎ……」
さやは今にも泣きそうな顔でつむぎをみた。
彼女にはこんな表情より笑顔の方が似合う。
だからこそつむぎは決意する。
「それにね……きっとそう思ってる人はわたしだけじゃないと思うの。それを証明してあげるよ!」