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宣戦布告

「…………」



 沈黙だ。

 向こうでは演奏がされ盛り上がっているのにここでは気まずい沈黙が周りをシーンとさせる。


 場所はライブハウスのロビーにあった席。

 そこでつむぎとさや、そしてかすみが対面して座っていた。

 この場所に話があるからと誘ってきたのはかすみだった。

 つむぎはさやに手を引かれついていったのだ。



「久しぶりの再会なのに嬉しそうじゃないね。わたしは会えて凄く嬉しいのに……」


「……」



 微笑むかすみに対してさやはただただ無言だった。

 つむぎは止めに入った方がいいのか迷っていた。最初はここにいるべきか迷いはしたがさやはこの再会を快く思っていないらしい。

 なら彼女のそばにいてあげるべきだと思い見守っていた。



「ねえさやちゃん覚えてる? わたしがあなたとは友達じゃないって言ったこと」


「……っ!?」



 さやの手がピクリと動いた。

 それはさやにとっては忘れられないある種のトラウマ。


 小さなさやの心を抉った深い傷。

 


「それにはねちゃんと理由があるの」



 するとかすみは微笑む表情をやめて真剣にさやを見つめた。



「わたしはねさやちゃん……ずっとあなたを越えたかった。わたしのお母さんは有名なピアニストでわたしはそれに憧れてピアノを習った。


 そこにさやちゃんが現れてわたしの人生は変わった。最初は嬉しかった。こんなに素敵な演奏ができる子が同い年にいることが。


 だから仲良くしてた。でも……それはいつしか嫉妬に変わってた。


 どんなに頑張ってもコンテストで優勝するのはあなたでわたしは二番手どまり。両親はそれでも喜んでくれてた。でもわたしにとってピアニストの娘であることがプレッシャーでもあった。


 それで気付いたの……あなたと関わることがわたしが成長するのに不要なことだって。だから縁を切った」



 それは衝撃的な事実だった。

 彼女が縁を切った理由。

 それがさやのピアノの演奏の腕前による嫉妬だということに。



「そしたらあなたはピアノ教室には来なくなってどのコンテストを受けてもあなたはいない。そのおかげでわたしはコンテストで優勝するようになった。けど、あなたのいない場所での一番なんていらない。わたしはあなたに勝った上での一番が欲しい」



 かすみはその後しばらく言葉を溜める。

 そして口を開いた。



「だから、わたしと対戦して」


「対戦って……いったいどうやって……?」



 ずっと黙り込んでいたさやが口を開く。

 対戦するとはどういうことか?

 ピアノで勝負するということなのか。

 それとも別のなにかなのか。

 かすみはスマホを取りだしある画面を見せた。

 それが分かるのはそう遅くはなかった。



「あなたにならぴったりな場所があるでしょ? 小太刀咲夜ちゃん……」


『ほむらすみれっ……!?』



 つむぎとさやは同時に言う。

 彼女の出してきた画面それはほむらすみれのチャンネルアカウントだ。

 それは登録者の画面ではない。

 投稿者にしか見れない設定アイコンが表示されていた。


 しかしなぜさやが咲夜であることを知っているのだ?



「わたしは去年の冬たまたま見たUフェスの配信であなたがわたしに聞かせてくれた曲のメロディーが耳に入った。一発であなたの曲だと分かったよ。小太刀咲夜がさやちゃんであることもそうかからなかった」



 そういえばさやは、おそらくはじめて自分の作曲した曲をかすみに聞かせているのだ。

 それが今のモノクロームだ。

 かすみはそれを覚えていたというのか。



「それからわたしはほむらすみれとしてUドリーマーでピアニストとして活動してる。順調に登録者も増えていてあなたに並ぶ日も近い。だからあなたとUnreallyで音楽勝負させてよ。わたしがあなたより優れてるって証明するために」



 するとかすみは立ち上がる。



「ルールは後日Unreallyで決めるから。決戦の日を待ってて」



 かすみはそのまま荷物を持って立ち去って行った。



「…………」


「さやちゃん……大丈夫?」



 心配そうにさやの方を見るつむぎ。

 さやは左の二の腕を右手で握り震えていた。

 つむぎはずっとただ見守ることしかできなくて彼女を助けてあげることができなかった。

 あの会話の中に入っていくことが自分にはできなかった。



「へ、平気だよつむぎ……」



 さやは笑う。それはもちろん心のそこからの笑いではない。

 無理をした苦しそうな笑いであった。



 ◇



 帰路。つむぎとさやはことねたちとは別々に帰ることにした。

 

 ことねたちはこの詳細を一切知ってない。

 今日この日を楽しいものにするためにも彼女たちには知らないでいてくれた方がいい。



「私知らなかった……かすみが私の音楽に嫉妬していたなんて。縁を切った理由が私の音楽のせいだなんて……」



 さやは変わらず元気がない表情だ。

 それもそうだろう。

 自分が思ってた以上に二人の関係には深い傷があったのだ。


 そこでつむぎは考える。



「さやちゃん……そのさ、今日さやちゃんの家に泊まりに行ってもいい?」


「……別に親も今日いないから平気だけど……どうして?」


「今のさやちゃんは一人にしておけないから」



 彼女のそばにいてあげたい。

 今にも触れてしまうと崩れてしまいそうな彼女をただ支えてあげたい。


 つむぎはその一心でこれからのことを考えていった。 


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