抜け駆けと思わぬ事実
「ここでいいか……」
さやはつむぎの手をとってひなたたちとは距離を置ける場所を探した。
そしてたどり着いた場所は橋の下だった。
そこには誰もいない。静かに花火の音だけが響く。
「どうしたのさやちゃん突然抜け駆けするなんて……」
つむぎは状況もわからぬままさやについてきた。なぜ自分達がここにいるのかわからない。
先ほどからの不自然さといい今日のさやはどこかおかしい。ちゃんと話を聞いてみないと分からなさそうだ。
「つむぎにだけ話しておきたいことがあるんだ……」
少し複雑そうにしかし意を決したかのようにさやは口を開く。
「実は私に……小太刀咲夜にレーベルデビューのオファーが来た」
その言葉の後に大きな花火の音が鳴り響いた。
「れ、レーベルデビュー!? どういうこと!?」
つむぎは一歩遅れて驚く反応をする。
レーベルデビューということはCDを現実世界で販売すると言うことだろうか?
しかしどういうきっかけでオファーがきたのだろう?
つむぎは疑問に思いながらさやの話を聞いていく。
「それはね……」
花火の音が鳴り響くなかでさやは一人淡々とこれまでのことを話していった。
◇
「ふぅ……」
それは夏フェスで咲夜がライブを披露した後、自分の楽屋に戻った時のことだ。
当然ながら楽屋には自分以外誰もいない。
「お疲れさまでした咲夜さん」
そう思っていたら後ろから声がかかってきた。
扉の後ろ。
楽屋に入ってきたばかりではすぐには気づかない場所に一人の少女がいた。
咲夜は驚く。ここに自分以外がいるということとその少女を知っているがために。
「のあ……どうしてここに?」
それは仁瀬のあ。
咲夜のファンと名乗り数週間前に会った少女だ。
曲作りのことを色々聞かれしゃべり方も少し特殊だったため印象に残っている。
だが彼女がなぜここにいるのか。
彼女はライブの参加者ではないはずだ。
「実はあなたに大切な話があるのです。そのためにここで二人きりで話がしたかった」
彼女のしゃべり方は敬語で前の時の訛りのようなものはない。
そのしゃべり方と声はどこかで聞いたことのあるようにも感じた。
そしてのあは冷静に単刀直入に言う。
「小太刀咲夜さん。音楽レーベル『ノワルツ』でCDデビューしませんか?」
「CDデビュー!?」
のあが言った内容に咲夜は追い付けてなかった。
ノワルツは神咲レアもCDを出している大手音楽レーベルだ。
そんな所からCDデビューを持ちかけられるとはいったいどういうことだ?
それ以上に……
「のあ、君はいったい何者?」
のあの存在が不思議でしょうがなかった。
彼女はただ趣味で作曲をしてる少女じゃなかったのか。
彼女の本性はいったいなんなのか。
そして彼女は口を開く。
「私は……」
すると彼女から黒いバラとオーラが現れた。
それは彼女を包み込むように舞い彼女の姿を変えていく。
それは姿だけではなく名前までもを。
その姿を見て咲夜は目を見開いた。
あまりにもありえない光景を目の辺りにして言葉を失っていた。
「私は、神咲レアです」
その姿名前は正真正銘本物の黒薔薇の歌姫。
Uフォースの一人として君臨し続けるトップアンリアルドリーマー。
神咲レア本人だった。