自由な音楽
つむぎたちはその後城の外へと出た。
城の壊れた天井はただ今音符の兵隊たちが修復をしている最中だ。
シャープ姫は城に残りつむぎたちがフラット姫を迎えに戻ってくるのを待っている。
城の外の町へと続く階段はピアノでできている。
外に出て気づいたが建物や地形は空に浮いており数百メートル下は多い海になっていた。
空にはカラフルな譜面のように音符が並んでいる。それらがなにかの音楽のメロディーになっているのかはつむぎにはわからない。
ピアノの階段を歩いていく。
「あっ! 踏むと音が鳴るよ!」
それは踏むと本物のピアノのように鍵盤が沈みドレミファソラシドと音が鳴っていく。
聞いているだけで楽しい道だ。
町の中にくるとつむぎたちは本格的にフラット姫を探すこととする。
「えーっとフラット姫の容姿はこんな感じかー」
フラット姫の写真を貰っていたつむぎたちはどんな姿かを確認する。
それは紫の髪にシャープ姫と瓜二つの見た目をした少女だった。
「場所は恐らくシャープ姫たちが小さい頃使ってた隠れ家らしいね」
咲夜が地図を見て言う。そこはシャープ姫とフラット姫が昔お城から抜け出し使っていたとされる隠れ家。そこで自由に歌って演奏をしたりして遊んでいたようだ。
だが地図を見たとはいえここはあまり馴染みのない場所だ。それに一歩間違ったら下へ落ちるかもしれない。気を付けていきたいところだ。
そこでつむぎたちはこの町の住人に地図の場所を教えてもらうことにした。
「すみません、この場所に行きたいんですけど生き方ってわかりますか?」
つむぎは町の住人らしき人いやタンバリンの形をした住人に行き方を教えてもらう。
「そこならここから東だよ。でもちょっとあぶないから気を付けてね」
「ありがとうございます!」
つむぎはお礼を言うと立ち去りその方角へ向かう。
しばらくあるくと橋があった。それは普通の橋ではなく巨大な長いリコーダーだった。
「あぶないねこれ。落ちたら大変だよ」
下は落ちたら空中にあるこの場所からは上がれない海。一歩間違えば危険だ。
幸いにも小さいリコーダーで手すりのようなものができてるためバランスを崩して落ちるのはそこまで無さそうだが。
「ウチは空飛べるから平気だけどね。ミーシェルも同じでしょ」
「うむ、まぁそうだな。だがこの道を普通に歩むのもまた風情がある」
空が飛べるしきは楽だと思ってるらしいがミーシェルはこの橋を渡りたそうだった。
たしかに危ないがこの世界らしさが体験できてスリリングで面白そうだ。
「じゃあ普通にここを進もう」
つむぎはミーシェルの意見に賛成しリコーダーの橋を渡っていく。
足場は少し悪くて落ちるか不安だったが手すりを使いながら徐々に歩いていった。
そして次につむぎたちに立ちはだかったのはリズムゲームエリアと書いてある場所だ。
現在その場所には足場がない。
説明を見るとここを進むにはリズムに合わせて現れた青い足場を踏んでいきましょう。
失敗すると最初からやり直しです。
というものだった。
「なんかリズムゲームっぽいね! 楽しそう」
つむぎは嬉しそうに言う。
それからつむぎたちは足場のない数メートル付近にたつ。
すると音楽が流れリズムゲームのノーツのようなものが青い足場として現れた。
それをつむぎたちは踏んでいく。
反復横飛びに近いそれは結構運動神経が必要だった。
「きゃっ!」
「あわふっ!」
つむぎとしきが足場を踏み外し最初のところへと戻る。海に落ちることはないようでひと安心した。
しかし咲夜とひなたはすでにこの足場を渡り終えていた。
「つむぎ大丈夫!?」
「うん、大丈夫! まっててね今いくから」
心配する咲夜に笑顔をみせるつむぎ。
失敗したつむぎだがこれ自体は楽しかったためなんの苦もない。
それから何度か挑戦しつむぎたちは無事この足場を渡りきる。
渡りきり数百メール後。そこには一件の家があった。
おそらくこれがシャープ姫たちの隠れ家だ。
トントンとつむぎはドアをノックをする。
するとドアが開く。そこにいたのは紫色の髪をしたシャープ姫そっくりの少女だった。
「あのフラット姫、ですよね?」
「そうですけど……」
つむぎが尋ねるとすんなり認めたシャープ姫。しかしその表情はどこか不機嫌そうな顔をしている。
「私たちはシャープ姫に頼まれて連れてくるように言われたんだ。心配してるから……帰ってきてあげたらどう?」
咲夜が言う。
だがそれを聞くとフラット姫はそっぽを向いた。
「帰りません。姉さんは私のことを理解してくれない」
フラット姫はまだ拗ねているようだ。
そこでつむぎは言う。
「お姉さんも後悔してるみたいだよ。姉妹ならちゃんと話し合って理解してくれるよ。……ここって昔、二人で自由に演奏したり歌を歌うのに使ってたんだよね。そのときの楽しさシャープ姫も覚えてるはずだよ……だからきっと大丈夫」
「……」
つむぎは思ったことを言う。
演奏を聞いたり作詞をすることは咲夜とのやり取りでつむぎは好きだった。それは楽しいし大切な時間だ。
だから二人にもそんな楽しさがずっと残っているとつむぎは思った。
するとフラット姫は少しの間の後口を開いた。
「そこまで言うなら……戻ります」
◇
それからフラット姫は城に戻りシャープ姫に再会した。
「シャープ姉さんごめんなさい。勝手に家を飛び出して……」
謝るフラット姫。しかしシャープ姫は首を横に振る。
「いいえ、私のほうこそごめんなさい。あなたの気持ちを軽はずみに捉えてしまって。あなたにも考えがあってヘビィメタルをやろうって言ってたのに……」
シャープ姫は真剣に語り始めた。
「万人の受ける曲がすべてじゃない。楽しいはいろいろな形がある。そうつむぎさんたちの楽しそうな音楽を聴いて私は昔の自分を思い出しました」
シャープ姫はつむぎの方を見て言う。
「一国の姫、その奏でる音楽は古きよき音楽であるべきだと思っていました。でも違いましたね。音楽は自由であるべきもの、なににも縛られてはいけない。なのでこれからは音楽祭で演奏するジャンルを縛るのをやめます。……好きな曲を歌いみんなに自分だけの音楽を届けましょう」
「シャープ姉さん……!」
シャープ姫を見てフラット姫は驚いた。
心境の変化にフラット姫はびっくりしたのだろう。
フラット姫はシャープ姫の手を両手で握る。
「ありがとう! じゃあ私アイドルソングが歌いたいです」
「へ? ヘヴィメタルはどうしたのだ?」
突然の音楽のジャンル変更にミーシェルが困惑する。
「あぁもうヘヴィメタルは旬じゃないので! これからはアイドルソングですよ! ティンクルスター最高!」
「そういえばこの子はすぐに気分が変わる子でした」
ズコーっと思わずずっこけたくなるつむぎたち一同。
しかしシャープ姫は微笑みフラット姫も和解できて幸せそうだ。
「では、今から音楽祭をしましょう! みんな自由に好きな音楽を奏でて好きって気持ちをぶつけ合いましょう」
シャープ姫がそう言うと音楽祭の準備が始まった。
◇
その後音楽祭がはじまる。
町ではみんながいろいろな曲を演奏しそれを見て楽しむものたち、音楽にまつわった商品を販売する者、パレードのように歌いながら移動する者までいた。
フラット姫はというとティンクルスターと同じ衣装を着てティンクルスターの歌を歌っていた。
つむぎたちもその場の雰囲気を楽しんで好きなように歌い演奏する。
しきのように音痴だったりするものもいるがそんなことは関係ない。
ここは誰もが音楽を愛し自由に楽しむことが許される国へと変わっていった。