お菓子のお家を作ろう
泣いている方にいくと、そこにはクッキーの破片らしいものが散らばっていた。
そこにぽつりと小さなキャンディと、クッキーで出来たクマの妖精が二人いる。
キャンディの妖精は泣いていた。
それをどうしたらいいかわからず、困惑してみているクマの妖精。
「どうしたの?」
「ぼくのお家をクマくんが全部たべちゃったんだよぉ」
泣いているキャンディが事情を話す。
詳しいことを聞くと二人は友達で、留守だったキャンディを待っていたクマがキャンディの家を食べてしまったらしい。
「ごめんクマー。おいらおなかペコペコだったんだクマ。一口だけと思って食べたら美味しくてつい、やめどきがわからなかったんだクマ……」
「ボクお家作るの得意じゃないからこれからどうしよう……」
クマの方も悪気があったわけではないらしい。
しかしいくらお菓子の家とはいえ、キャンディの家が無くなってしまったのはかわいそうだ。
「なんかかわいそうだね」
小さく呟く咲夜。
どうにかできないものか。
つむぎは考える。
「ねぇ咲夜ちゃん」
そして咲夜の耳元でひそひそと話す。
するとなるほどと咲夜は頷く。
「そうだね。つむぎがそうしたいなら私も協力するよ」
二人はお菓子の妖精に近づき屈む。
「ねえお菓子の妖精さん。あなたのお家を作るの、わたしたちに手伝わせてくれない?」
つむぎは考えた提案を言う。
建築なんてしたことはないが
ここはすべてお菓子でできている。
建築に必要な材料ならたくさんある。
なら自分達でも家を作ることなら可能だと思った。
「ほんとにっ!? お客さんたちの力があればきっとすばらしいものがつくれるよ」
泣いてたキャンディは泣くのをやめ、喜ぶように目を輝かせる。
「おいらが食べちゃったせいだからその分手伝うクマ! 力仕事ならまかせてクマ!」
お腹をポンとならし頼もしそうにいうクマ。
「建築をするなら材料を取る道具が必要です。これを使ってください」
キャンディは手からアイテムを召喚する。アメで出来た斧にスコップ、ノコギリなどのアイテムが現れた。
つむぎはそれをもらいパンと手を叩く。
「そうと決まれば建築開始! みんな好きなお菓子を集めて建物の資材にしよう!」
その合図で四人は建築作業に取りかかった。
◇
「この木が良さそうかな」
咲夜はチョコレートの森に来て木を斧で切り倒していく。
木はチョコレートのため少し固さもあるが、すんなり切り込みが入りそのまま倒れる。
太さもそれなりにあるため、柱として使うには十分だ。
「おいらが木を運ぶクマ!」
クマは自信満々に、咲夜の斬り倒した倒木を持ち上げる。
小さい姿とは裏腹に力持ちだ。
「クッキーを壁に使いたいんだけどこの床のクッキーって使っても大丈夫かな?」
一方つむぎはクッキーで出来た道に来ていた。
地面のクッキーは一定の大きさで敷き詰められており、壁にするのに最適だった。
しかしここは道、みんなが使う場所。いくら自由に使っていいとはいえ大丈夫だろうか。
「はい! 床とかの固定オブジェクトは次の日には新しいのに変わってるから大丈夫ですよ!」
そんな疑問とは裏腹にキャンディは笑顔で言った。
その答えを聞いてつむぎも安心し
ノコギリを使い道を斬り取っていく。
素材をかき集め建物はつむぎの指示の元、形付けられていく。
一応家っぽい形の物はある程度できてきた。
しかし、芸術家つむぎの作品は、まだ完成しない。
まだやるべきことがあった。
「仕上げはクリームとデコレーションのお菓子だよ! これで立派なお家にしようね!」
つむぎの手には生クリームと、普通のサイズのお菓子があった。
これをデコレーションすることで、家が完成するのだ。
妖精たちはウキウキとお菓子を手に取り、クリームで接着剤のようにお菓子をくっつけていく。
◇
「完成!」
そしてお菓子の家は完成する。
「わぁすごい……」
「これは美味しそう……でもこんな綺麗なの食べてなくなっちゃうの勿体無いから、おいら食べられないクマ」
妖精たちは惚れ惚れするように、完成した家を見つめる。
資材はクッキーを壁にチョコレートの屋根とドア。ホワイトチョコの煙突。咲夜が切ったチョコの木を柱に使っていた。
そこに生クリームを使い、デコレーションのお菓子をくっつけてお菓子の家の完成だ。
「ありがとうつむぎさん!ボクこの家大切にします!」
「おいらも、おいら一人じゃ解決できなかったからほんと感謝するクマ!」
「そうしてくれると、わたしも嬉しいよ」
つむぎは微笑む。
こうやって他の人に感謝されるのはやはり嬉しい。
Uドリーマーをやって思ったが誰かを喜ばせるのが、こんなに素晴らしいことだと今まで気づいてなかった。
「これお礼にどうぞ」
するとキャンディは手から光るものを取り出す。
そのアイテムは輝いていてちゃんとみるのが難しかった。
しかし次第に輝きが落ち着き、それがなになのか気がつく。
それはペンの上に羽が生えていてたペンだった。
シャーペンのようででもすこしちがうような謎のペンだ。
「このペンなに?」
「これはマテリアライズペンと呼ばれるものです」
聞いたことのないアイテムだ。
そこでアイテム詳細からマテリアライズペンを鑑定する。
【マテリアライズペン】
描いたものをオブジェクト化し
一時的にアイテムにできる。
一定時間がたつと描いたアイテムは消滅する。
つむぎは理解するのに少し時間をかける。
そして一つの結論にいたる。
「つまり描いたものが立体的になるってことかな? チュートリアルのアバター作成みたいに」
「多分そういうことだと思う。つむぎにはぴったりかもしれないね」
◇
「ありがとう! 妖精さんたち! またね!」
「こちらこそ、お世話になりました~」
お菓子の妖精たちに手を振り、別れを告げるつむぎ。
この世界の感情豊かな妖精たちは、NPCなのに実際に生きているようにも思えた。
もう景色は夜、月と綺麗な星々がかがやいていた。
光輝くそれらもまた、お菓子なのだろうか。
「楽しかったね!」
「うん……家作り、楽しいね」
笑顔を向けるつむぎにそっと微笑む咲夜。
咲夜にもまた手伝ってもらう形になった。
しかし彼女は嫌な顔せず、むしろ楽しそうに作業を協力してくれた。
「この楽しい風景をみんなにも見せれたらなぁ……」
Unreallyでの日々は毎日が予想外の連続で、非現実の連続だ。
現実ではありえないこともここでは起きて、妖精とだって話せてしまう。
それは普通のゲームともまた違った体験だった。
こんな体験をいろいろな人に知って欲しいと思ってしまう。
「あ!?」
「どうしたの……?」
つむぎが突然足を止める。
横並びに歩いていた咲夜は、つむぎが止まって少しした後、つむぎの方へ振り向いた。
「わたしの作りたい動画の方向性見つかったかも!」