07
ライカさんはわたしに目配せして、一緒に部屋に入りましょうと合図した。
わたしは首肯し、ライカさんに続いて部屋に入った。部屋に入った瞬間、奥の空間からひやりとした冷たい風がそよいできた。
わたしはわずかに身震いをして、部屋を見回すと、またもや驚いた。
とても広い。全身で感じる部屋の異常な広さにわたしは驚愕した。体育館や、施設のホールにいるときと同じ感覚を覚えるほどの巨大な空間が広がっている。見る限りそこは部屋をいくつもぶち抜いたような造りで、鉄骨がむき出しになった壁が荒々しい工事の跡を物語っていた。
具体的な広さは分からない。
なんせ、機材が多すぎて奥のほうまで見渡せないのだ。何に使うか分からない大型の機械がいくつも軒を連ねている様は、まるで巨大なビル群のようだった。大型の機械からは大小さまざまなパイプが入り乱れ、丸太のように太い紫色のチューブが床に何本もごろごろと転がっている。
部屋が寒いのは、どうやらこの大きな機械を冷やしているからのようだ。天井や横の壁から低い唸り声のような不気味なクーラーの音が聞こえる。
「博士、センザキさんを連れてきましたわ」
ライカさんが再びそう言うと、部屋の隅で物音が聞こえた。
「んん、ライカか・・・」
男の柔らかい声が、部屋のどこかから聞こえた。ライカさんはためいきをつき、真っすぐな足取りで紫色のチューブの山に向かった。
「博士、こんなところで寝ては風邪をひきますよ」と呆れ顔のライカさんがかがんで誰かに声をかけていた。チューブの山の中で寝ていたその男は、眠そうに眼をこすりながらもそもそと起き上がってくる。
「ライカさん、この人は・・・」
「この人が研究所で一番偉い博士よ、ハルちゃん」
と、ライカさんは言うが、わたしにはとてもじゃないがそうは思えなかった。
「この人が・・・?」
まず見た目の若さといったら学生とほとんど変わらない。流石に中学生には見えないが、大学生というのなら間違いなく信じてしまいそうな大人と子供の狭間をさまよっている物腰柔らかそうな優男だ。ぼさぼさに伸びた髪に、黒縁眼鏡、色白の肌、中性的な顔立ちはどこか弱弱しさを感じさせ、ライカさんが手を差し伸べて起こそうとする光景は、惰眠を貪る弟を起こそうとするしっかり者の姉のようで、どこか微笑ましささえ感じるのだ。
彼はわたしに気づくと、薄気味悪い笑顔を浮かべて言った。
「・・・やあ、おはよう、染崎アオイちゃん。君が運び込まれたときはどうなることかと思ったが、やれ、元気になったようで安心したよ」
感覚的にだけど、わたしはこのひとの笑顔がなんとなく苦手だった。博士はわたしの手をとり、握手をした。
「博士、違うわ。今はハルちゃんよ」
と耳打ちするライカさん。
「無論入れ替わっているのは知っているよ、名前は知らなかったけどね。ハルちゃんも初めましてだね。僕のことは気軽に博士と呼んでくれたまえ。親しくしてくれて一向に構わないよ」
「は、はあ・・・」
この人もわたしという別人格をしっかり把握しているらしい。