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03

目が覚めると、私はベッドで横になっていた。白い天井に、眩しく光る蛍光灯、それに照らされる私を白いシーツが優しく包んでいる。


「あら、目が覚めたのね」


不意に誰かが声をかけてきた。

私は首だけ起こして声のした方を向いてみると、そこには見知らぬ金髪の女の人がいて、私に微笑みかけていた。


「・・・・・・あなたは?」


寝ぼけ眼で見てもその人が美人だということははっきり分かった。美しい顔で、慈愛に満ちた優しい微笑みを向けられたものだから、私はなんだか照れくさくなって、つい顔をそむけてしまった。それがお姉さんには怯える小動物に見えたのか「心配しないで。大丈夫よ」と、私の肩にそっと優しく手を置いた。


「あなた、橋の下で倒れていたのよ。体は平気かしら?」


「・・・・・・橋の下で、倒れていた?私がですが?」


「そうよ。覚えてないかしら?橋の下でうずくまって、うるさい、うるさいって言いながら倒れていたのよ」


「・・・・・・・うるさい・・・あっ!『ノイズ』!」


不意にあの音を思い出して思わず飛び起きた。

そうだ、頭の中で『ノイズ』がうるさかったことをすっかり忘れていた。今ではどういうわけか音は消えていて、体はどこも異常が無かった。


「『ノイズ』って・・・?」


金髪のお姉さんが首を傾げながら訊いてきた。


「あ、いいえ・・・なんでもありません・・・。ええと、それより、助けてくださったんですよね?ありがとうございました」


金髪のお姉さんは「どういたしまして」とまた優しく微笑んだ。


改めてみるとやっぱり目を見張るような美人さんだ。歳は二十歳後半くらいだろうか。若々しいけど、大人びても見える。

目鼻立ちのしっかりした顔に、首、肩、腰、脚への滑らかなラインから、プロポーションの良さが服の上からでもはっきりわかる。金髪がよく似合っているし、手櫛で髪をとく仕草など、ひとつひとつの動きが嫋やかでとても素敵だった。気づけば私はお姉さんに見惚れてしまっていて、じっと顔の隅々まで夢中で眺めていた。


夢中になっていると、ふとお姉さんと目が合った。


「私の顔に何かついてる?」


「い、いいえ!そう言うわけじゃ・・・!」


私は慌ててかぶりを振った。

顔の熱がどんどん上がっていくのを感じる。そんな私を見てお姉さんは「かわいい」と言った。

その一言が余計に恥ずかしくて、より一層顔が熱くなるのを感じた。きっと今、私は耳まで真っ赤なのだろう。


「自己紹介遅れたわね。私の名前は、真木ライカ。研究者をやっている人間よ」


お姉さんは「よろしく」と慇懃に頭を下げるので、つられて私も頭を下げて「せ、染崎アオイと言います。中学生です」と下手くそな自己紹介を返した。


「アオイちゃんっていうのね、よろしく。身体の方はもう何ともなさそうだけど、一応休んでいきなさいな」


「あ、ありがとうございます。あの、真木さん・・・」


「そんなにかしこまらないで。ライカでいいわ」


「あ、えと、じゃあ、ライカ・・・・・・さん」


大人の人を下の名前で呼んだことのない私にとって、そう簡単に呼び捨てなど出来るわけなかった。


「あの、ここってどこなんですか?なんだか病院みたいですけど・・・」


「ここは私の働いている研究施設の医務室よ」


「研究施設、ですか・・・」


辺りを見回すと、ベッドが四つ、ガラスの戸がついている棚には薬品が等間隔に置かれ、部屋全体を包む白色はシミの一つもなく、蛍光灯の光を存分に反射していて眩しいくらいであった。床は鏡面のように反射し、つやつやと輝いていた。窓はない。ドアが奥に一つと、ベッドの近くに一つ。奥のドアは「TOILET」と標示されてあり、外とつながっているのは、どうやら近くのドアだけのようだ。


・・・しかし、生まれてからずっとこの街に住んでいたが、研究施設があったなんて知らなかった。

それに研究者という人種は、みんな白衣を着ているものだと私は勝手に思っていたが、ライカさんは高そうなスーツをびしっと着こなしていてあまりそのイメージにそぐわない。

むしろOL、いや、美人秘書って感じがする。高層ビルの社長室で、社長の隣に控えている姿を想像するとしっくりきた。

人生で初めて見る研究者に色々と思いはせていると、不意に頭の中で声が聞こえてきた。


『アオイ!』


「ハ・・・ッ!」驚いて思わず声に出しそうになったが、私はライカさんが目の前にいることを思い出し、咄嗟に手で口をふさいだ。


「どうしたの?」

とライカさんが訊ねてきた。


「あ、え、いや、すいません。あのトイレ・・・トイレをお借りしてもいいですか?」


慌てて取り繕う私。いきなり頭の中から話しかけられました、なんて言えば誰だっておかしな子だって思うに違いない。ライカさんが、トイレはあっちよ、と指さしたので私はどこか気まずさをふり払うように小走りで向かっていった。


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