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02

その後、行く当てもない私は、街をまるで夢遊病者のようにフラフラと彷徨った。


雨は一向に止まない様子だった。ノイズも同じく鳴り止まなかった。


『・・・アオ』ざざざざざ『イ』『アオ』ぎぎぎぎぎぎ・・・


ハルの呼ぶ声がした、気がした。頭の中が五月蠅くてハルの声が聞こえにくくなってきているのだ。

音は徐々に大きく複雑になっていき、次第に外の音を奪っていった。

街の雑踏が耳に届かない、頭もだんだん重くなっていく。

すれ違う人たちがゆらゆらと揺れる陽炎のように見えて気持ち悪かった。

しばらく歩いて私がようやく腰を落ち着けたところは、川にかかる橋の下だった。

薄暗く、壁には落書きが書きなぐられ、地面にはゴミが散乱している。陰鬱な空間だった。まるで悪霊が住み着いているような寒気がする。

普段なら絶対に寄り付かない場所だったが、雨に濡れていないこともあり、この際少しでも落ち着けそうな場所ならどこでもよかった。


ざざざざざざざざ『ア・ざざざざざざざざざ・・イ・・・だい・・じょ・・ぶ・・ざざざざざざざざ・・・・?』


幽かに聞こえるハルの声。

私はコンクリートの壁に背を預け、そのままずるずるとへたり込んで、頭を抱えてうずくまった。


「大丈夫だよ・・・けど、ちょっと休みたいかな・・・」


それ以降、ハルからの声は一切聞こえなくなった。


音は頭の内側で反響しているから無駄なことは分かっているけれど、私は耳を塞ぐことにした。それでどこか安心できた。けど『ノイズ』は依然、苦痛でしかなかった。私の精神で反響を続け、しまいには私の内側を食い破って外に出てきそうなほど暴力的で獰猛な音になり果てていた。

ぐわんぐわんと視界が大きく揺れる。五感をいたぶる破壊的な音。


「うう・・・・・・う・・・ハ、ル・・・」


ぎぎぎざざざざぎぎぎぎいじががっががががががががががががざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざががががががががががががが


だんだん耐えられなくなって私はすがるような思いでハルを呼んだ。しかし、既に自分が声を出しているのかどうかすら判らないほど、音がうるさくなっていた。

頭の中が破裂しそうだ。


ざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざざじじじじじじじじじじじじじじじ『あ』ががががががががががががががががががががががががががががががががががががが『あああああああああああああああああああああ!!』じじじじっじじじじじじじじざざざざざざざ『るさい!うる』ざざざざざざざざざざざざざざざじじじじっじじじじじがががががががががががががががががががががが


『ノイズ』の中に、私のうめき声が幽かに混じって聞こえてきた。


あ、私今声出してたんだ。


ぶつん。

何かが切れるような音。その後から記憶はなかった。




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