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アオイと、わたしと、私たち。染崎アオイはひとりじゃない  作者: kandy
一年前⑨ 第九人格『染崎???』の場合
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どれだけ走ったのだろうか。


気づけばアオイは、朝もやがわずかに残った神社にやってきていた。

何でこんなところに来たかはわからない。夢中になって走っていたら気づかないうちに辿り着いていた。

人気のない神社だった。誰もいなくて静かだ。その静けさがやたら耳に染みた。境内の端に腰かけるとアオイはようやく息が切れていることに気づいた。ゼッゼッと荒い息を吐き出していると、教室にいた皆の顔を思い出した。

敏香の顔を。奈美の顔を。一つ一つ思い出してみると、再び涙があふれ出てきた。


『親にも愛されなかったくせに!』


親友から出たその言葉が何度も頭の中で反響する。


「そんなこと知ってるよ・・・奈美・・・」


・・・・・・だからせめて、友達からは愛されたかった。大切な親友だったのに。


愛されなかった私の、大事な親友だったのに。


『お前なんか―――友達じゃない!!!』


・・・・・・聞きたくなかったよ、そんな言葉・・・。


アオイはあふれる感情が抑えきれずに声を出して泣いた。


・・・わたしに、アオイの悲しみと怒りと悔しさがすべて伝わってきた。


今アオイが我慢していた感情がすべて涙に変わっていく。


「・・・・・・ハル!!」


少し経ち、未だ息を整え終えないのも構わず、アオイは声を荒げてわたしを呼んだ。鋭く責めるような言い方だった。


『・・・アオイ』


「・・・・・・どうして守ってくれなかったの、ハル!!」


予感していたその言葉が、わたしにはとても辛かった。


『・・・ごめんアオイ・・・』


わたしの情けない弱弱しい声だ。


「・・・ほかの人格が悪いことしないようにするって言ったじゃない!私に迷惑が掛からないようにするって言ったのは嘘だったの!?」


『努力したの!必死に止めようとしたけど、あの子たちの力は想像以上に強くて・・・!』


「そんな言い訳聞きたくない!」


アオイは叫ぶように言った。


「・・・私だけならまだいいの。でも色んな人にいっぱい迷惑かけたのが、何より許せない!クラスのみんな、鮫島君、敏香、それに・・・奈美・・・」


語尾を滲ませ、アオイはまた悲痛を訴えるように泣いた。思えばアオイに責められたのは初めてだった。何があっても温厚なアオイが攻撃的になる姿は、どこか哀しみを含んでいて痛々しかった。


「・・・嘘なんてつきたくなかった!私のせいなのに!私の人格が全部やったって間違いないのに!私はそんなことやったって覚えてないから!辛かったけど、悔しくて!」


『・・・・・・アオイ・・・』


「・・・・・・そのせいで、奈美を傷つけた!みんなを、恐い思いにさせた。私・・・私・・・・・・・取り返しのつかないことをしちゃった・・・」


言葉が涙で滲んだ。アオイは泣き崩れ、顔を悲しみでゆがめて泣いた。


『アオイは悪くない!全部わたしのせいなの!あの子たちを止められなかったわたしのせいよ!』


わたしがそう言うと、アオイは何かに憑かれたように不意に固まった。


「・・・ハルの・・・せい・・・?」


肩をわずかに上下に震わせ、濡れた瞳で遠くを見据えていた。


『・・・皆にあんなこと言われたのは、わたしがふがいなかったからよ!アオイは絶対に悪くないよ!』

そして小声で「・・・そうよ」と呟いた。

「・・・・・・そうよ・・・・・・そうよ・・・」と繰り返す。


その時、アオイの中に黒い煙のような何かが燻った。

アオイに今まで見たことのないものだった。


それは少しずつ形を作ろうと蠢いていて、わたしを視た。


目というものがないから、それは恐らく意識を注いでいるのに過ぎないが、その刺すような意識に睨まれているような錯覚に陥った。


それは炎のように燃え滾る激情でもあった。


「・・・・・・アンタのせいよハル!私は悪くないもん!・・・ハルが止められなかったせいよ!!私は何もしてないんだから!」


アオイは震えながら言った。今アオイを染め上げている感情、それは『憎悪』だった。


透明なほど純粋な憎悪だ。


「・・・・・・いいや、ハルだけじゃない!他の人格全部よ!私の中にいる別人格、全部のせいよ!」

そしてそれは燃え上がる怨嗟だった。アオイを包む黒い業火が立ち昇る。


「・・・・・・許さない・・・絶対に!許さない!!許してたまるもんか!」


再び、アオイは解離れる。


「お前ら、全員ブチ殺してやるよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


轟!と響く叫び声が、大地を揺らす。


突如アオイは自らの首を絞め始めた。ミシミシと首が不穏な音を鳴らす。それだけじゃ、足りなかったのか、頭を地面に何度も打ち付けた。


「死ね!死ねよ全員!!今ここで、私が殺してやるよォオオオオオオオオオ!!」


まるで猛々しい獣の咆哮だ。純粋の殺意がとめどなく溢れている。

額から血が出ている。アオイの体から少しずつ、命が零れていく。


「ハルてめえ殺してやる!許さねえ!絶対にぶち殺してやる!!!」



アオイが叫んだ。


ーーーーーその時。


「・・・・・・そこまでよやめなさい!」


不意に声が響いた。鋭いその声は冷静にアオイを諫めた。


「アオイちゃん、落ち着きなさい!そのままじゃあなたまで死んでしまうわよ!」


「てめえええええ!邪魔をするなアアアアアアアアアアア!!」


アオイが声の主めがけて、勢いよく飛びかかりーーーー


「・・・・・・手荒くするつもりはないんだけど、しょうがないわね」


そう言って声の主は身に宿す超能力を発動した。


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