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「・・・・・・残念なことに、わたしは、苦しく、無い。首を絞めても、この男が、苦しむだけよ・・・」

と涼しい顔をして男はしゃがれた声を出す。


「あなたが向かってくるなら、受けて立つ・・・。少なからず、わたしも、あなたに、腹が立ってるから・・・」


ハンドルをさすりながらハルは言った。


「・・・上等だ!私を殺したように、お前も殺してやる!ハル!」


わたしが首を絞める力を強めると、ハルは冷静に言った。


「ねえ、夢中な、とこ・・・悪いけど・・・運転手にそんなことするのは命とりじゃない?前見たほうが、いいよ・・・」


その瞬間、運転手が微かに震えて朧げな目になった。そしてその後覚醒したかのように一気に目を開いて驚いた様子を見せた。


「がっ・・・!ごホッごほっ、何だアンタ!何をッ・・・!」


私に首を絞められたまま男は急に狼狽え始めた。


「・・・あいつ、能力を解きやがったか・・・!」


すると混乱した男は、状況を理解できずに慌ててハンドルを小刻みに動かし始めた。

キュキュキュキュ!とタイヤが激しく鳴る。


「ばか!よせ!落ちつけ!!」


操りなおさないと、と思った・・・が、その前に突然の事態に思考が吹き飛ぶ。

進行方向に道路が無かったのだ。

カーブに差し掛かったのだ。

それは過剰ともいえるほど「スピードを落とせ」という標識が目立つカーブ橋だった。


嘘だろ、と私が言う前に運転手が「うわああ!だめだああああああ!」と全てを諦めたような声を上げた。


瞬間、車はカーブした橋の側面にぐしゃ!と思い切り衝突し、そのまま勢い余って、橋の外に飛び出した。


その先には、ただ何もない空間が広がっていた。


浮遊感に包まれ、割れたガラスが車内に、きらきらと雪のように舞った。刹那の間、壊れた窓から、太陽が頭上に昇ったり、足元に落ちたりと、忙しなく回転しているのが見えた。

まるで時間が加速したかのように錯覚させた。その感覚があまりにも滑稽だった。


そして。


大きな衝撃と共に、ザブンという音を立て車は河に墜ちた。


「・・・・・・ッッ!!」


車内を冷たい水が一瞬で満たした。車と一緒に、私の意識も川底に沈んでいく。視界がぼやけ、次第に音も消えていく。冷たい水が怒りに満ちた心を鎮静していく。


熱が奪われ、暗闇が私を侵していく。


私は静かに目を閉じた。死を受け入れるかのように静かに。


私の中で最期まで灯っていた輝きはやはり『怒り』の炎によるものだった。


・・・・・・ハル・・・。


その言葉は静かに暗闇に呑まれていった。


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