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01


ぎぎぎぎぎぎ、と鈍い音がどこかで反響している。


それに合わせて、ざざざざざざ、という音が共鳴している。


だけど、それだけじゃない。

音は多様だった。

判然としない細かい雑音が、何層にも重なって、奇妙で不愉快なハーモニーを作り上げていた。言うなれば、それは頭の中で響く『ノイズ』のようなものだった。

私は布団を頭から被った。けどそんなことをしていても『ノイズ』が止むことはなかった。


ふと『ノイズ』に混じって、お母さんが階下で、階段をバンバンと叩く音が聞こえた。

早く学校に行け、と急かす合図だった。

私はこのまま『ノイズ』が収まるまで休んでいたかった。けれど、お母さんに頭の中がうるさいので学校を休ませてほしい、なんて言えるはずもなかった。そんなことを言えばお母さんはもっと怒るに違いない。お母さんに怒られるのは私にとって何よりも恐いことだった。


もそりと布団から抜け出る。

立ち上がると、頭の中の騒音はなお一層ひどくなった気がした。

けれど仕方ない。

そのうち音は止むかもしれない。そんな予感は全くしないけれど、そう願うことにした。私は大人しく準備をして、不思議といつもより重く感じるカバンを背負って、学校に向かうことにした。


中学三年の秋、土砂降りの雨の日だった。


鉛色が世界を埋め尽くす朝、傘にあたる水滴の音が私の頭の中の『ノイズ』に共鳴してうるさい。今までにないくらい最悪な朝だ。


『ハル・・・ハル・・・起きてる?』私は声に出さずに頭の中で呟いた。古くからの親友を呼んだのだ。


『起きてるよ。どうしたのアオイ?』


ハルは案の定、起きていた。

こんなに頭の中が騒がしければハルもろくに眠ることが出来なかっただろう。


『ハル、私の頭の中どうなっているの?』


『よくわからない。とにかくうるさくてしかたないよ』


『・・・てっきりハルが何かしてるかと・・・』


『変なこと言わないで、そんなことしない。なんでこんな音がするのかわたしにもわからないよ』


『・・・ひょっとして私、病気になったのかな』


『・・・わからない。あとノイズの雑音に混じって誰かの声みたいな音が聞こえる気がする』


『・・・声?それなら私もなんとなく聞こえる。本当になんとなくなんだけど・・・』


確かにどこか声にも聞こえるが、それは声というほど確かなものではなかった。それはまるで、街の喧騒のようでもあったし、傘にあたる雨の音のようでもあったし、風が吹きすさぶ音のようでもあって・・・とにかく変な音だった。


ざざざざざざざざざざざざざざざざざぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎ・・・


『・・・・・・アオイ、大丈夫?』


『・・・まあね』


とは言ったものの、気分はかなり優れなかった。

雨に煙った不透明の通学路の先を見て、私は足を止めた。足が進まない。

学校まで行くのが億劫、いや苦痛だった。

通り過ぎていく学生の群れの中で私は立ち尽くす。

薄暗い空を映した水たまりをひとしきり眺めた後、私は踵を返した。通学路を一人逆行する私を見て、同じ学校の生徒たちが奇異な目を向けていく。不思議なことに小心者の私がその視線を気にすることは無かった。今は頭の中の出来事で一杯一杯だった。


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