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「・・・・・・なんなのよ、アレ・・・。どこから取ってきたのよ・・・!」
「おねえちゃん、大丈夫?」
「・・・あの猫・・・あなたがやったの・・・!?」
「そうだよ!トモダチになってもらったの!」
「トモダチって一体何を言ってるのよアンタ・・・!?」
それを一度認識すると、途端死骸が発する臭いがし始めた。命が消え、閉じ込められた肉の臭いが発散され鼻を突くのだ。
「さあ、おねえちゃん早くしようよ!」
アマリが奈美の手を引っ張った。
腰が抜けていたが、アマリの手を引く力が強かったので、奈美は無理やり起こされた。
「じゃあ、いくよお!かーごーめ、かーごーめ、かーごのなーかのとーりーは・・・」
アマリと奈美はそのまま猫の死骸の山をぐるぐると歌いながらひたすら回り続けた。本来の『かごめかごめ』の遊び方ではないのだろうが、アマリはとても楽しそうにしていた。一方、奈美は猫の死骸が気になってそれどころでなかった。
よく見れば子猫も混じっている。どんな猫でもお構いなしに殺されてる。しかもこの死骸の山をトモダチと呼んで一緒に遊ぼうとする親友もただただ不気味で仕方なく、言い知れぬ恐怖に奈美は涙を浮かべるが、なんとか泣かないようにと頑張って耐えた。
日が落ち、次第に闇が濃くなっていく公園。
二人の影が躍った。
「あ、そろそろぼく帰らないと!」
突如アマリは公園の時計を指さしながら言った。
「六時には帰らないと、お母さんに怒られるの!じゃあね、おねえちゃん!あそんでくれてありがとお!」
そして満ち足りた顔で、唐突に駆け出した。あまりに急だったので、
「・・・あ、ちょっと、待ってよアオイ!」と奈美はついアオイの名を呼んで引き留めてしまった。
すると案の定「もう!だから!アオイなんかじゃないってば!」と、その言葉に今度は怒ったような表情を見せるアマリ。
暗闇に陰ったその顔が奈美にはとても恐く感じてしまった。
「・・・ち、違うのよアマリくん。そ、そうこの子のことよ!この子の名前がアオイなの!」
とっさに奈美が指さしたのは猫の死骸の中の一匹。体が半分に千切れた猫だった。
アマリは怒ったまま奈美と猫の死骸を交互に見やる。
「・・・・・・この子名前がなかったからお姉ちゃんがつけておいたの。アオイちゃんよ。・・・いい名前でしょう?」
しばらく、んんと唸ったあと「うん!ならいいよ!」と納得した様子のアマリ。
猫の死骸に親友の名前を付けるなんて、自分でもどうかしていると思った。
けれど納得してくれたアマリの姿をみると妙にホッとしてしまう自分もいた。
「・・・・・・うん、じゃあ、アオイちゃんにもバイバイしなくちゃ!」
そう言って、アマリはずんずんと近づいてくる。
なにを、と奈美が言いかけた瞬間。
アマリは、アオイと命名したばかりのその猫を、グシャリと踏みつけた。
奈美の喉がヒッと鳴った。死骸の山がぼとぼとと崩れ落ちた。
そう、親友と同じ名前を持ったそれはあっけなく踏み崩され、砂場の一部になり果ててしまった。しかし、アマリはそれでもぐしゃぐしゃと何度もしつこくアオイがいたところを踏み続ける。
「あはははははははは!!あおい!ばいばい!あおいばいばい!!」
アマリは楽しそうに笑う。
「何をしてるのよ!!やめて!」
無意識だった。奈美はアマリを突き飛ばして、無理やりやめさせた。
砂場にドサッと倒れるアマリ。いてて、と唸っている。
奈美が我に返ったとき、感じたのは砂場に倒れたアマリからの怒りだった。子供らしい無邪気で純粋な怒りがこちらを向いている。アマリは今にも泣きだしそうになるのを意地で我慢し、顎をひくひくさせ、歯を食いしばりながらも、こちらを睨んでくるのだった。
「うううううううう・・・」と、唸るアマリ。
「・・・・・・ご、ごめんね。アマリくん。わ、わざとじゃないの・・・ケガしてない・・・?」
奈美がアマリの体を起こそうとする前に、アマリは勢いよく立ち上がり、暗闇でも鋭い眼光を浮かべて、
「・・・・・・おまえも死ね!!クソババア!!」
そう言いながらアマリは奈美を突き飛ばして、砂場の砂を掴んで奈美に向かって何度も投げつけた。
「しね!しね!しね!しね!しね!しね!」
「やめてよ!ちょっと!やめてアオイ!」
ひとしきり投げつけた後、アマリは「バーーーーカ!」と叫んで夜の帳が下りた世界へ勢いよく走り去っていった。
ひとり公園に取り残された奈美は自分の姿を見た。砂に汚れた自分が、淡白な街灯の光に照らされていた。砂が白いソックスを黒くして、細かい砂粒が服の下に入り込んで気落ち悪かった。それよりもなんだか自分が惨めに思えてなんだかとても嫌な気分だった。「・・・・・・もうやだ、全部」と呟き、砂場の真ん中を見た。そこにはアマリが何度も踏みつけた足跡と、無残な猫の死骸がいくつか残っているだけであった。
奈美は起き上がり、公園の端の方を掘り、そこに猫の死骸を埋めることにした。
土をかけていると、どんどん涙が零れ落ち、止まらなくなった。
「・・・・・・アオイ、あなたは誰なの・・・・・・・・・」
しばらくの間、奈美はまるで子供のように泣きじゃくった。
その日、夜の公園に少女のすすり泣きが人知れず寂しく響いた。
『ノイズ』は続く。




